研究実績の概要 |
本研究では、ヒカゲノカズラ科植物由来のアルツハイマー病改善薬候補化合物であるhuperzine A (HupA)生産糸状菌Paraboeremia sp. Lsl3におけるHupA生合成調節機構の解明を目指した。 前年度までにおいて、まずHupA生産植物オニトウゲシバより分離した内生糸状菌Paraboeremia sp. Lsl3の紫外線照射株を作出し、得られた211株の変異株について代謝物分析を行なった。その結果、Lsl3KI076株において、HupAおよびlycopodineと共に1種の新規Lycopodiumアルカロイドの生産を見出した。Lsl3KI076株の化合物生産性は高くなかったため、さらに1,056株の変異誘導株を作出したが、目的とするアルカロイド高生産株の取得には至らなかった。またこれと並行して、Lsl3株の形質転換系構築に成功し、Lsl3株の全ゲノム解析まで完了した。 本年度は、前年度に明らかとしたLsl3株のゲノム情報を活用し、非相同末端結合修復に関わる遺伝子ku70の破壊株作出を試みた。ハイグロマイシン耐性遺伝子を選択マーカーとし、その両端にku70遺伝子のORF外領域を結合させた遺伝子破壊ベクターを作成した。制限酵素処理した破壊ベクターを用い、プロトプラスト-PEG法によりLsl3株を形質転換した結果、96株の形質転換体のうち1株のみにおいて、ku70遺伝子の破壊が確認された。 本研究では、紫外線照射によるHupA生産菌のアルカロイド生産性回復に成功し、さらにLsl3株のゲノム情報の取得および分子遺伝学実験システムの整備をはじめ、鍵となる研究基盤を確立できた。今後、変異箇所の特定および遺伝子破壊実験を継続し、目的とする化合物生産調節メカニズムの解明を達成する。
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