研究課題
【目的】タンパク質間相互作用は、生体の恒常性維持において重要かつ様々な役割を担う。特定のタンパク質間相互作用を制御できる分子は、生物医学研究のツールや新たな医薬品シーズとなりうる。実際に、タンパク質間相互作用を阻害するバイオ医薬品(例:抗体)が臨床応用されている。しかし、高コスト、免疫毒性、また、標的が細胞膜表面に限定的といった課題も残っており、より低コストで細胞内外のタンパク質間相互作用を制御可能な合成分子が求められている。このような状況下、らせんなどの特定の二次構造をとる人工オリゴマー分子(フォルダマー)は、タンパク質の二次構造を模倣できるため、タンパク質間相互作用を制御可能な分子として注目されている。私は、配座が厳密に制御されたシクロプロパンδ-アミノ酸を基本ユニットにしたオリゴマーが、タンパク質のαヘリックスを模倣した新たなフォルダマーになるのではないかと考えた。そこで、様々な立体化学の光学活性シクロプロパンδ-アミノ酸オリゴマーを設計し、マクロモデルを用いてそれらの最安定配座を計算したところ、特定の立体異性体のホモオリゴマーが、安定な右巻きヘリックスを形成することが期待された。そこで本研究では、実際にその光学活性シクロプロパンδ-アミノ酸オリゴマーを合成し、構造解析によってその三次元構造を明らかにすることを目指した。【方法・結果】目的の立体化学を有した光学活性シクロプロパンδ-アミノ酸を、不斉補助基を利用した立体選択的Grignard反応および不斉アルキル化を経て、合成した。種々の長さにオリゴ化後、その立体構造をCD測定やNMR測定によって解析した。その結果、6量体以上のオリゴマーで、一定の二次構造を形成していることが示唆された。現在は、より詳細な構造解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
目的の立体化学を有した光学活性シクロプロパンδ-アミノ酸を、不斉補助基を利用した立体選択的Grignard反応および不斉アルキル化を経て、合成することができた。また、合成したシクロプロパンδ-アミノ酸を種々の長さのオリゴマーへと誘導することができた。まだ立体構造の完全な確認には至っていないものの、CD測定やNMR測定によって構造解析に取りかかるところまで到達した。以上の結果より、おおむね順調に進展していると判断した。
今後は、合成したオリゴマーの溶液中および結晶中の立体構造を、NMR測定やCD測定、X線結晶構造解析などにより、実験的に明らかにしていく。また、ペプチドミメティクス創薬において高い代謝安定性は必要な性質である。可能ならば、合成したオリゴマーのヒト血漿中での安定性評価として、プロテアーゼ抵抗性を測定する。また、細胞膜透過性を測定する。
研究が順調に推移したこと、および、参加を見込んでいた学会へ参加できなくなってしまったために、少額の次年度使用額が生じた。学生の学会参加費およびその旅費に充てたい。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Chemistry-A European Journal
巻: 23 ページ: 3159-3168
10.1002/chem.201605312
Journal of Medicinal Chemistry
巻: 60 ページ: 5868-5875
10.1021/acs.jmedchem.7b00540