研究課題/領域番号 |
17K15479
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
友池 史明 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 助教 (70708586)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 阻害剤 / 酵素 / 結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
抗がん剤を含む薬剤の多くは細胞内において、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)によってグルタチオンが付加され、細胞外に排出される。そのため、GST阻害剤は抗がん剤の補助剤として、また、抗がん剤として有用である。これまで報告されているGST阻害剤は特異性が低く、レジデンスタイムが短いことが考えられた。我々は、これらの問題を解決するためにGST特異的に結合して共有結合を形成する阻害剤GS-ESFを開発した。生化学的解析および質量分析計による解析により共有結合の形成は確認できていたが、結合様式は不明であり、構造展開が困難であった。そこでGSTPとGS-ESFの共結晶を調製し、X線結晶構造解析によって複合体の構造を決定した。これにより、GS-ESFは設計通り、グルタチオンと同じ結合箇所に結合していることがわかった。また、複合体の構造の主鎖をグルタチオン複合体の主鎖と比較したところ、高度に一致しており、GS-ESFのグルタチオン骨格とGSTPの相互作用はグルタチオンと同様であった。GS-ESFのスルホニルフルオリド基に着目したところ、108番目のチロシンと共有結合を形成していることを示す電子密度マップが観察された。このことから、GS-ESFは108番目のチロシンと共有結合を形成していることが明らかになった。また、分子動力学シミュレーションにより、共有結合形成において、スルホニルフルオリド基の酸素原子が水素結合を形成することで、108番目のチロシンとフッ素の位置関係が決定されることが示唆された。さらにGS-ESFの誘導体を合成し、細胞の膜透過性を評価したが、膜透過性の改善は見られなかった。そこで2,4-ジニトロクロロベンゼンの誘導体の合成・評価に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、GS-ESFとGSTPの相互作用を結晶構造解析によって明らかにした。そこで2017年度中に生化学的解析すなわち阻害の時間変化の計測と透析による阻害剤を除去した後の活阻害の検出、質量分析による共有結合形成の検証と共有結合を形成したアミノ酸残基の推定、X線結晶構造解析による結果、また、分子動力学的シミュレーションの知見をまとめ、当初から論文発表と計画していたとおり、Chemical Communication誌にて発表した。本研究計画で目的としていたとおり、構造情報に基づき、膜透過性等の向上を目指した誘導体を設計・合成し、細胞を用いてその効果を評価した。評価方法はGSTの蛍光性基質を用いた細胞内GST活性を観察するとともに殺細胞活性を計測した。これらの計測にはフローサイトメーターを用いた。その結果、GS-ESFの誘導体では膜透過性の向上は見込めないことが示唆された。そこで当初計画にはなかったが、新たに膜透過性を有し、かつGSTPと共有結合を形成する阻害剤の開発に着手している。この阻害剤は2,4-ジニトロクロロベンゼンの誘導体であり、すでに設計・合成が進んでいる。すでにその一部は合成まで完了しており、精製したGSTおよび培養細胞を用いた解析を進めている。現在のところ、相互作用解析はまだ途中であるが、膜透過性と阻害活性を示唆する結果は得られている。この結果は細胞に応用できる阻害剤の開発が進んでいるということができ、これは当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画ではGS-ESFの阻害剤の誘導体の合成・評価を行う予定であったが、グルタチオン骨格により膜透過性の向上が困難であった。そのため、上述したとおり、新たに2,4-ジニトロクロロベンゼンの誘導体による共有結合性阻害剤を新たに開発した。すでに設計・合成に着手している。2018年度は精製したGSTおよび培養細胞を用いて評価する。精製したGSTにおいては生化学的パラメータを決定するとともにサブタイプ特異性を評価する予定である。培養細胞を用いた実験では、細胞内のGST活性の変化を計測することで膜透過性および生体内の酵素阻害活性を評価する。相互作用を明らかにするため、質量分析計による解析を進める。これらに加えて相互作用を解析するために、ハンギングドロップ法によってGSTPと新たな阻害剤の共結晶化を行う。得られた結晶はSPring 8の放射光を利用して立体構造を高分解能で決定し、相互作用を原子分解能で明らかにする。これらの結果をまとめて論文として報告する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画で検討を予定していたスルホニルフルオリド基とグルタチオン骨格のリンカー部分について、グルタチオン骨格の骨格の修飾では膜透過性が改善されなかったため、リンカー部分の検討の代替案として2,4-ジニトロクロロベンゼンの誘導体化を進めた。その結果、予定していた細胞実験等が平成30年度に移動したため、予算執行が一部翌年度の執行に延期された。
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