本年度においては、イトラコナゾールのNPC1変異体に対する薬理学的シャペロンとしての作用と、その結合に相関があることを示した。初年度に得たイトラコナゾールの光親和性標識プローブと昨年度に確立したNPC1の標識実験法を用い、NPC1の膜貫通領域に点変異を導入すると、NPC1-I1061T変異体に対するシャペロン活性がなくなるとともに、プローブによる標識も起きなくなることを示した。他の実験結果と合わせ、このデータはイトラコナゾールがNPC1変異体に直接結合し、その結果としてシャペロン活性を示していたことを強くサポートするものである。 また、イトラコナゾールのNPC1変異体への作用をさらにキャラクタライズする目的で、非変性ポリアクリルアミド電気泳動法 (native PAGE) によりNPC1変異体のフォールディング状態・安定性を調べた。その結果、野生型に比べてフォールディング異常を示す変異体は安定性が低く、native PAGEにおいてoligomerとして泳動されることを見出した。さらに、この泳動パターンはイトラコナゾール処理により野生型同様に戻ることも示し、イトラコナゾールが仮説通りの作用を持つことを確認した。この泳動パターンの変化は、I1061T変異により起きる異常を鋭敏に捉えており、他のフォールディング異常に関連した疾患においても応用できる可能性がある。 また、イトラコナゾールプローブを用いた光親和性標識やnative PAGEを行う過程で、NPC1の泳動度がイトラコナゾール処理により変化することを見出した。この作用は結合による作用ではなく、NPC1の生合成中に起きている作用であり、複数のタンパク質でこのような作用が現れることから、糖鎖修飾の阻害が起きていることが想定される。イトラコナゾールは糖鎖修飾関連の酵素を阻害するというオフターゲット作用も有する可能性が高い。
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