研究課題
本研究は,レドックス活性を有するキノン体 (AhQs) によるレドックスシグナル伝達機序および当該シグナル制御における高求核性イオウ化合物の関与の有無を明らかとし,毒性学や予防医学において高求核性イオウ化合物の重要性を提示することを目的とした. H30年度は,9,10-フェナントラキノン (9,10-PQ) をAhQsのモデル化合物とし,本キノンによるPTP1B/EGFR/ERKシグナル活性化における高求核性イオウ化合物の役割について検討を行った.ジチオスレイトール (DTT) の存在下で9,10-PQと精製ヒトPTP1Bタンパク質 (hPTP1B) を反応させると,DTTに還元された9,10-PQとのレドックスサイクルにより産生された活性酸素種 (ROS) によりhPTP1Bが酸化しその活性が低下する.その活性阻害はDTTやTrxで回復しなかったが,高求核性イオウ化合物のモデルであるNa2S2でhPTP1Bを前処理しておくと有意に回復した.過酸化水素を用いた検討においても同様な結果が認められた.これらの結果からNa2S2処理によりPTP1Bのチオール基 (P-SH) がパーサルファド化 (P-SSH) し,ROSがP-SSHをP-SSOH,P-SSO2HおよびP-SSO3Hへ酸化してもS-S結合を還元することでP-SHに戻りPTP活性が回復することが示唆された.これを支持するように,UPLC-MS/MSにより,活性部位のCys215がP-SSHやP-SSOH化を受けることを明らかにした.P-SHの過酸化 (P-SO2HおよびP-SO3H) は不可逆と言われていることから,タンパク質のパーサルファド化 (P-SSH) もしくはポリスルフィド化 (P-SSnH) はその可逆性が担保されることで過酸化からタンパク質を保護する役割や,シグナル伝達を担う役割があることが示唆された
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