研究課題/領域番号 |
17K15491
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研究機関 | 独立行政法人労働者健康安全機構 日本バイオアッセイ研究センター(試験管理部、病理検査部) |
研究代表者 |
武田 知起 独立行政法人労働者健康安全機構 日本バイオアッセイ研究センター(試験管理部、病理検査部), その他部局等, 研究員 (60596831)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ダイオキシン / プロラクチン / 育児行動 |
研究実績の概要 |
研究代表者はこれまでに、妊娠ラットへのダイオキシン(TCDD)曝露により、育児期において育児ホルモンである prolactin 合成と共に育児行動が低下する事実を見出している。さらに、F0母へのTCDD曝露はF1以降の雌児においても離乳後にprolactinレベルを低下させることを発見した。本研究では、これらの知見に基づき、1) TCDDはF0母の prolactin 低下によって育児行動を抑制し、F1児の発育に悪影響を及ぼす、2) 雌児のprolactinレベルの低下の伝播によって出生児の発育障害が継承される、との仮説の検証とprolactin低下の機構解明に向けて研究を進めている。本年度の成果を以下に記す。
・TCDD曝露母ラットに prolactin を補給した結果、F0母の育児行動低下は改善し、F1出生児の低体重や短期記憶能力の低下も改善傾向を示した。さらに、TCDD曝露によって乳腺細胞の萎縮と母乳成分の変動が示唆された。 ・Prolactin低下と符合して、F0母へのTCDD曝露はF1~F3世代の雌児においても自身が母として行う育児行動の低下とその児の低体重と短期記憶能力の低下傾向を惹起した。 ・F0母体へのprolactin補給は、F1雌児のprolactin低下と育児行動低下に対しても改善傾向を示した。また、F2児の低体重や学習記憶能力低下も改善傾向を認めた。 ・妊娠期のTCDD曝露により、prolactin低下が起こる時期と合致して脳下垂体におけるprolactin陽性細胞数が減少し、脳下垂体重量の低下が認められた。これらと合致して、マイクロアレイ解析によって、TCDD依存的に細胞増殖関連遺伝子群の有意な変動がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、F0母へのTCDD曝露が育児期にprolactin合成低下に基づいて育児行動を低下させ、これがF1児の低体重や短期記憶能力低下に寄与することが明らかになった。さらに、上記のF0母のprolactin低下に基づく低育児が一因となって、F1雌児にもprolactinレベルの低下が継承され、児の低育児体質や出生児の発育障害が引き起こされる可能性をも見出した。 Prolactin低下の機構についても、prolactin陽性細胞数の低下と遺伝子の網羅的解析までは実施できたが、それらの意義付けや細胞レベルでの詳細な解析には至っていない。今後の研究の推進方策に記述している通り、この点については今後の課題である。 以上のように、予定している実験の多くについてはある程度の成果が得られており、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、H29年度の研究によって、TCDDによる育児母の prolactin 低下の毒性学的な意義付けに関してはまとまった成果が得られている。一方、prolactin レベルの低下が引き起こされるメカニズムに関しては十分に解析できていない。今後の展開としては、メカニズム解析を中心として研究を展開していきたい。 H29年度のマイクロアレイ解析により、細胞増殖に関連する遺伝子群の変化が確認されたため、これらの変動を定量的に解析し、標的候補の絞り込みを実施する。さらに、脳下垂体細胞や初代細胞などを用いた遺伝子解析やフローサイトメトリー解析を行うことで、細胞レベルで増殖などに影響が生じる可能性を追求する。 一方、ダイオキシンによる毒性には初期標的であるaryl hydrocarbon receptor を介した遺伝子変動が重要であることが示されている。そこで、上記の変動遺伝子候補に着目し、本受容体の寄与についても検討する。
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