本研究計画は、「病原性糸状菌のガラクトフラノース含有細胞壁糖鎖の構造制御メカニズムを明らかにし、ヒト感染過程における糖鎖構造変化とその免疫システムへの影響を観察する」目的で行われた。 研究計画最終年であった今年度は、病原糸状菌Aspergillus fumigatusの細胞壁ガラクトマンナンおよびガラクトフラノース糖鎖構造を制御する未知メカニズムのうち、① 既知ガラクトフラノース転移酵素GfsAのホモログであるGfsCの遺伝子酵素的・生物的機能を明らかにした。さらに、GfsAとは独立してガラクトフラノース糖鎖ポリマー化に寄与することを見出し、その研究成果を査読付き学術論文として出版した。また、② 本研究計画で見出された新規の遺伝子群 GfsA、GfsC、CmsA、CmsB、および既知の遺伝子群 GlfA、GlfB、Uge5 の遺伝子発現パターンの変動を観察した。その結果、これらの遺伝子群は、ガラクトフラノース糖鎖構造を能動的に変化させる刺激に対して感受性の遺伝子(発現誘導遺伝子)と、そうでない遺伝子(構成的に発現する遺伝子)の2グループに分けられることが分かった。すなわち、発現誘導される遺伝子は、「ガラクトフラノース構造の変化」を「遺伝子発現量の変化」として疑似的に観察可能な遺伝子マーカーとして利用できる可能性を秘めていると考えられた。最終的に、発現誘導遺伝子のプロモーター下流に蛍光タンパク質GFPを組み込んだレポーター遺伝子発現株を構築する段階までは漕ぎ着けたものの、レポーター遺伝子発現株を使ったヒト感染モデル実験を実施するまでには残念ながら至らなかった。本株を用いてさらに研究を深めることで、ヒト感染過程における細胞壁糖鎖構造の変化、およびヒト免疫システムへの影響について新たな発見がなされるものと期待される。
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