カドミウムは、今なお喫煙や採鉱時に呼吸器を経由して曝露され、その結果、腎臓や肺などの組織において、機能障害、癌を誘引することが報告されている日常の環境汚染物質である。培養細胞や個体レベルの実験系から、高濃度カドミウムを急性曝露すると、細胞レベルで細胞死が誘導される一方、長期間カドミウムを曝露すると、細胞の癌化が誘導されることが報告されているが、その毒性発現メカニズムの詳細は未だ解明しきれていない。そこで、本研究では、腎組織の一つであるヒト近位尿細管上皮細胞(HK-2細胞)に対し、カドミウムを曝露した時に惹起される細胞死メカニズムの解析を行うことにした。 前年度までの解析結果により、HK-2細胞において、カドミウム曝露依存的にリン酸化酵素ALK4/5が活性化し、細胞死が促進されることが示唆された。そこで、最終年度は、カドミウム曝露依存的HK-2細胞死におけるALK4/5下流で機能する因子の詳細を解析した。その結果、ALK4/5は転写因子Smad3及びリン酸化酵素Aktの活性化を介して、カドミウム曝露依存的HK-2細胞死を促進することが示唆された。一方、過去にALK4/5下流で機能することが報告されている転写因子Nrf2及びFOXO3aは、カドミウム曝露依存的HK-2細胞死におけるALK4/5の機能に関与しないことが示唆された。さらに、HK-2細胞を用いて得られた実験結果の確度を高めるため、初代ヒト近位尿細管上皮細胞を用いて解析した結果、HK-2細胞と同様の結果が得られることを確認した。
|