研究実績の概要 |
本年度はグルタチオン(GSH)枯渇が骨格筋障害およびそれに付随する腎障害に寄与するか明らかにすることを目的とした。マウスにBSO 1000 mg/kgを1日1回10日間腹腔内投与したが、血漿CPKの上昇は認められなかった。BSOによる骨格筋細胞内グルタチオンの減少は、投与後4-6時間でピークを迎え、15時間後には83%回復することが報告されている。そこで、12時間毎の絶食条件下、BSO 1000 mg/kgを1日2回12時間毎に腹腔内投与にて7日間処置した。その結果、血漿CPKが投与4日後から上昇し、8日目にピークを迎えた(350,000 U/L)。投与8日後における血漿miR-206-3pは600倍、miR-133b-3pは3000倍上昇し、組織学的に筋壊死を認めた。 続いて本マウスにおいて、腎障害の有無について評価した。投与5日後から血漿ミオグロビンが上昇し、7-8日後にピークを迎えた。同様に尿中ミオグロビンも8日後に最大を示した。免疫染色を実施したところ、一部の尿細管がミオグロビン陽性を示した。血漿クレアチニンおよびBUNは投与8日後に上昇した。腎組織中Ngal(Lcn2)およびKim-1の上昇が認められ、組織学的には尿細管閉塞および空胞が認められた。従って、筋障害に誘発された急性腎障害の発症が考えられた。本研究は全身のGSHを枯渇させることにより、骨格筋障害から引き起こされる急性腎障害が発症することを明らかにした。急性腎障害動物モデルには長年、グリセロールを筋肉内投与するモデルが使用されてきたが、グリセロールの高浸透圧による筋細胞膜破壊を原理としたモデルであり医薬品による横紋筋融解症の特性を必ずしも有しているわけではない。BSOを用いることで横紋筋融解症および腎障害を発症させた本モデルは、横紋筋融解症に起因する新たな急性腎障害モデルの一つとなり得ると考えられる。
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