本研究では、薬物の代謝酵素などの遺伝子変異を解析することで、薬物の効果や副作用の予測を可能とするファーマコゲノミクス(Pharmacogenomics: PGx)検査の臨床的有用性を評価することを目的としている。 今年度までに、薬物代謝酵素CYP2D6により代謝活性化を受けて効果を発揮する鎮痛薬トラマドールの個別化投与指針構築に向けて、レトロスペクティブ研究を進めてきた。トラマドールを処方され、CYP2D6の遺伝子多型測定を実施した患者144例の検体を用い、日本人に多い酵素機能低下変異であるCYP2D6*10に加え、酵素機能の欠損するCYP2D6*5、酵素機能が上昇するコピー数の測定を行った。遺伝子多型測定結果を酵素機能に応じ、酵素機能の大きく低下するPM (poor metabolizer)、酵素機能のやや低下するIM (intermediate metabolizer)、通常の酵素機能を有するEM (extensive metabolizer) 、酵素機能が上昇するUM (ultra-rapid metabolizer)に層別化し、トラマドール投与量との比較を行った。 昨年度までに暫定的に行った解析から、疼痛の原因となる疾患によっても効果が大きく異なる可能性が大きいと考えられたため、対象疾患を整形外科手術後の疼痛管理に限定して症例を集積し、得られた疼痛スコアに基づいて解析を行った。 日本人患者群85名において、PMに該当する患者は確認されなかった。各遺伝子多型表現形の群間における術後疼痛のNRS (Numerical Rating Scale) の推移を比較したところ、EMの患者に比較してIMの患者で有意に高くなることが確認された。 なお、本研究は滋賀医科大学及び立命館の倫理委員会の承認を得て実施している(承認番号:29-254、BKC-人医-2018-001)。
|