研究課題
近年、新規作用機序を有する抗がん剤である抗Programmed Death 1(PD1)抗体が実臨床で使用可能となった。PD1は宿主免疫を負に調節する中心的役割を担っており、PD1シグナルを遮断する抗PD1抗体は宿主の腫瘍免疫を活性化することで抗腫瘍効果を示す。しかしながら、抗PD1抗体療法は、その新規作用機序のために、治療効果や副作用発現を予測するバイオマーカーが存在せず、治療の最適化ができないという問題点を抱えている。本研究は、末梢血のT細胞プロファイルの変化を抗PD1抗体の治療効果や副作用を予測するバイオマーカーとして応用を試みる研究である。初年度は抗PD1抗体であるニボルマブが投与された悪性黒色腫患者におけるニボルマブ投与後の末梢血T細胞の量的変化に着目し、多施設共同後ろ向き試験を実施した。本解析では、末梢血T細胞の量的変化の代替指標として、末梢血リンパ球数を用いた。解析の結果、ニボルマブによる免疫関連有害事象が発現した患者群では、ニボルマブ投与後に末梢血リンパ球数が有意に増加することが明らかになった。一方で、末梢血好中球数に有意な差は診られなかった。さらに免疫関連副作用が発現した患者群では良好な治療反応性を示し、全生存期間が延長することが示された。以上の解析から、悪性黒色腫患者において、抗PD1抗体であるニボルマブ投与後の末梢血リンパ球の量的変化は、免疫関連有害事象と関連する可能性が示唆された。さらに免疫関連有害事象の発現と良好な治療効果の関連が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、抗PD1抗体の臨床効果を予測するバイオマーカーを同定することである。これまでの解析により、抗PD1抗体投与後のリンパ球の量的変化が免疫関連有害事象に関連すること、また免疫関連有害事象の発現と良好な治療効果に関連が見られることが明らかになった。この知見は、末梢血T細胞の量的変化の代替指標である、末梢血リンパ球数の変化が抗PD1抗体による免疫関連有害事象を予測するバイオマーカーとして有用であることを示唆している。従って、本研究は当初の計画に従っておおむね順調に進展していると考えられる。
今回見出した抗PD1抗体投与による末梢血リンパ球数の増加が、抗PD1抗体の治療効果や有害事象の発現を予測するバイオマーカーとしての有用性について検討するため、さらに症例を追加して検討を行う。また、抗PD1抗体投与後の末梢血リンパ球数の増加が、T細胞の増加を反映しているかどうかについて、患者末梢血を用いてフローサイトメトリー解析により検討を行う。また肺がんなど他のがん腫においても、同様の知見が得られるかどうかについても解析を行う予定である。このように、多面的な解析を行うことで、抗PD1抗体投与時の治療効果や有害事象を予測するバイオマーカーの同定を進めていく。
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