我が国では、慢性腎臓病 (CKD) の進展阻止による医療費の抑制が重要な医療課題となっている。申請者は、CKD モデルラットにおいてセリンプロテアーゼ阻害薬の一つであるカモスタット (CM) が抗酸化作用を発揮し、腎障害進展を抑制することを報告している。更に、最近得られた知見から、“CM のセリンプロテアーゼを介した酸化ストレス制御が CKD の腎障害進展を抑制したのでは”という考えに至った。昨年度に引き続き培養細胞を用いた検討にて、CM およびセリンプロテアーゼの典型的な阻害剤であるアプロチニンを使用し、腎障害時に酸化ストレスとの関連が示されているアンジオテンシンII (AII) よって誘導された酸化ストレスに対する細胞内抗酸化活性を評価した。その結果、CM およびアプロチニンの両薬剤で、AII 誘導性の細胞内 ROS 産生の有意な減少が確認された。続いて、CM とアプロチニンの直接的なラジカル消去による抗酸化作用の違いを比較し、酸化ストレス制御へのセリンプロテアーゼの関与について解析を行った。その結果、CM は直接的なラジカル消去による抗酸化作用が確認されたものの、アプロチニンでは確認されなかった。CM は細胞内 ROS に対する抗酸化作用および直接的なラジカル消去による抗酸化作用を示し、アプロチニンは直接的なラジカル消去能は無いものの細胞内 ROS に対する抗酸化作用を示すことから、CM およびアプロチニンはセリンプロテアーゼの制御を介して、抗酸化作用を発揮すると考えられる。
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