Disulfide-bond A oxidoreductase-like protein(DsbA-L)は、インスリン抵抗性改善作用や抗炎症作用を有するアディポネクチンの活性化に関与する分子であり、糖尿病の治療・予防の標的分子となり得る。本研究では、DsbA-L遺伝子を標的とした糖尿病の予防・治療を行うために、以下の検討をおこなった。 ①人間ドック受診者336名を対象に、DsbA-Lの発現量に影響するDsbA-L rs1917760遺伝子型とアディポネクチン値との関係について検討した結果、総アディポネクチンに占める高分子体の割合がDsbA-L T/T型保有者では低いことを明らかにした。 ②人間ドック受診者341名を対象とした検討では、DsbA-L遺伝子多型が肥満に影響することを明らかにした。さらに、本遺伝子多型が糖尿病の関連疾患である非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)発症に関連するか否かについても検討したところ、肥満や喫煙状況、性別、脂質パラメータ、肝機能検査値、血糖値など受診者の臨床的背景を考慮した詳細な解析(モデリング&シミュレーション)により、DsbA-L遺伝子多型は直接的にNAFLD発症に影響せず、肥満を介して間接的にNAFLD発症に影響することを明らかにした。 ③糖尿病患者373名を対象に、観察期間中の累積HbA1cを算出した後、糖尿病合併症の一つである慢性腎臓病(CKD)の発症予測モデルの構築に取り組んだ。その結果、CKD発症確率(Pr)を予測するlogit(Pr)モデルの構築に成功し、共変量には、性別とDsbA-L遺伝子型、収取期血圧、年齢、RAS阻害薬の使用の有無が組み込まれた。従って、DsbA-L rs1917760遺伝子多型は累積HbA1cと独立して、糖尿病患者のCKD発症に関与することが示唆された。
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