研究課題/領域番号 |
17K15515
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
保坂 卓臣 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (30611579)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肝分化マーカー / CYP3A4 / アミノ酸 |
研究実績の概要 |
初年度は肝機能賦活化・肝成熟化に寄与する栄養素の同定を目指して研究を行った。 ヒト肝癌由来細胞株であるHepG2細胞に肝分化マーカーであるCYP3A4のレポータープラスミドをトランスフェクション後、脂質、ビタミン、グルコース、アミノ酸を種々濃度で添加した培地で処置し、レポーターアッセイを行った。また、定量的逆転写PCR法によりCYP3A4の発現変動を解析した。用いた各種栄養素のうち、アミノ酸のみがCYP3A4レポーター活性を上昇させた。アミノ酸はmTORの活性化を介してタンパク質合成を調節するという報告があるため、mTOR経路の阻害剤であるラパマイシンを用いてアミノ酸によるCYP3A4レポーター活性上昇におけるmTORの寄与を調べた。しかしラパマイシンはアミノ酸によるレポーター活性の上昇を消失させず、むしろ上昇させた。また、定量的逆転写PCR法を用いてアミノ酸がCYP3A4をmRNAレベルでも上昇させることを確認した。以上の結果からアミノ酸はCYP3A4の転写を正に制御していること、また、これにはmTORの活性化は関与していないことが示唆された。 次に、HepG2細胞と比較してヒト肝細胞に近い機能を有するヒト肝細胞様細胞であるHepaRG細胞を用いて、アミノ酸がCYP3A4 mRNAレベルに与える影響を解析した。その結果、アミノ酸処置はHepaRG細胞においてもCYP3A4 mRNAレベルを増加させることが明らかとなった。 以上より、培地のアミノ酸組成を最適化することで、現段階では機能的に未熟であることが報告されているヒトiPS細胞由来肝細胞の成熟化を促進できるのではないかと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
用いる培養細胞・基礎となる培地・レポータープラスミドの種類、処置時間などの条件検討に時間を要したため研究の進行が遅れた。ヒト肝由来培養細胞とヒトKupffer 細胞、ヒト血管内皮細胞、ヒト星細胞を様々な比率で共培養して肝成熟化マーカーおよび肝未分化マーカーの発現を変動させる共培養条件を探索することも予定していたが、初年度は実施できなかった。しかし、アミノ酸がmTOR非依存的に肝分化マーカーであるCYP3A4の発現を正に制御することを見出すことができ、次年度行う予定であるその機序解析により、今後十分な成果が得られると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
種々の長さのCYP3A4プロモーター領域を持つレポータープラスミドを作製し、これを用いてレポーターアッセイを行うことにより、アミノ酸によるCYP3A4遺伝子の転写活性化に関与する応答配列および転写因子を同定する。これと並行し、種々のキナーゼインヒビターを用いてシグナル伝達経路の解析を試みる。また、これまでは種々アミノ酸の混合液を使用していたが、どのアミノ酸がCYP3A4の発現増加に寄与しているかを明らかにするために各アミノ酸を用いて実験を行う。 肝成熟化マーカーおよび肝未分化マーカーの発現を変動させる肝非実質細胞との共培養条件を明らかにするため、肝由来培養細胞(HepG2細胞、HepaRG細胞)とヒトKupffer 細胞、ヒト血管内皮細胞、ヒト星細胞を様々な比率で共培養してCYP3A4、Albumin、CYP3A7、AFP のmRNA レベルを測定し、単独培養の場合と比較する。これらマーカー遺伝子が顕著に変動した共培養条件における培養上清を回収後、これを添加してヒト肝細胞を培養し、共培養時と同様のマーカー遺伝子の発現変動が起こるか否かを解析する。さらに、サイトカインアレイなどを用い、回収した培養上清に含まれるマーカー遺伝子の発現を変動させるサイトカイン類を推定後、候補のサイトカイン類を用いて検証する。
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