薬物代謝酵素の発現状態に基づいた投与量の調節が、副作用の軽減に有効です。しかしながら、併用薬が多い患者では代謝酵素の誘導及び阻害により発現量の予測が困難なため、発現状態を認識して投与量を調節するインテリジェント製剤の開発が期待されています。本研究では、腸内のビリルビン濃度から肝臓における薬物代謝酵素(UDP-グルクロン酸転移酵素1A1、UGT1A1)活性を把握して薬物放出量をコントロールする経口投与製剤を開発することを目指しております。 本年度は、UGT1A1で代謝されることが知られているラロキシフェンを用いて、アルギン酸ゲルビーズの調製条件が、薬物放出挙動とビリルビン濃度との関係にどのような影響を及ぼすか検討しました。その結果、脂溶性薬物であるラロキシフェンをモデル薬物として使用した場合、ゲル化に用いた塩化カルシウム水溶液の濃度が0.05 ~ 0.1 M の範囲では、ビリルビン存在下での薬物放出量の増加がみられ、塩化カルシウム水溶液の濃度を0.5 M まで高めると逆に薬物放出量の低下が認められました。また、用いたアルギン酸の分子量が大きいほど、ビリルビン存在下での薬物放出量が増加し始める時間は遅くなる傾向にありました。さらに、調製時のゲル化時間の違いがビリルビン存在下での薬物放出挙動へ影響を与えることも明らかとなりました。これらの結果から、ビリルビンの有無によって増減するアルギン酸ゲルビーズからの薬物放出量は、使用するアルギン酸の種類やゲルビーズの調製方法によりコントロールできる可能性が示唆されました。
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