多剤併用療法が標準化している昨今、薬物相互作用による有害事象を回避することは、重要な課題である。申請者は、マクロファージ活性化経路の一つであるToll様受容体(TLR)シグナル経路に作用する薬物同士を併用にすることによって、急速に細胞死が誘導される現象を見いだした。本現象は、免疫系以外の細胞では見られないことから、免疫系に特異的な薬物相互作用を示唆している。これらの研究成果を踏まえ、本研究では、自然免疫系の機能低下をもたらす新奇薬物相互作用を起こしうる医薬品の同定とその分子機構の解明を行うことを目的とし、重篤な感染症の予防に向けた新たな治療手段の提供につながると考え、本申請研究を企画した。 本年度は、前年度より引き続き、グラム陰性菌外膜成分であるリポ多糖(LPS)存在下でのみ細胞死を誘導する化合物の探索を進めた。その結果、植物であるクロヅル中の成分、セラストロールを同定することができた。現在、その作用機構の解析を進めている最中である。 また、マクロファージを取り巻く環境の変化によってマクロファージの細胞死や応答性が異なる現象を見出し、その解析を進めた。その細胞内pHの変化が、これらの応答性の変化に重要であることを見出した。さらに、SLCトランスポーターの1つであるSLC4A7がマクロファージにおける細胞内pH調節機構に重要な役割を担っており、SLC4A7による新たなマクロファージの応答制御の可能性を見出した。 脂質異常症治療薬のスタチン系薬剤によってもウイルス応答に関与するTLR3のリガンドであるpoly(I:C)に対する応答性を抑制する作用も見出した。本現象は、スタチン系薬剤の新たな副作用を示唆している。この抑制機構については現在までにほぼ明かにすることができており、現在論文投稿中の段階である。
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