研究課題/領域番号 |
17K15536
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研究機関 | 横浜薬科大学 |
研究代表者 |
吉門 崇 横浜薬科大学, 薬学部, 講師 (70535096)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイオマーカー / OATP1Bs / PBPKモデル |
研究実績の概要 |
薬物動態を決定する要因として、肝臓に発現する薬物輸送体と代謝酵素が重要である。肝臓のOATP1Bsは高脂血症治療薬や経口血糖降下薬等のアニオン性薬物の肝取り込みを担っており、薬物間相互作用や個人差の観点でも重要である。本研究では、肝OATP1Bsを主要なターゲットとし、プローブ薬を投与することなく、内因性基質の血漿中濃度推移を用いることで、医薬品および候補化合物の体内動態を予測する方法論を構築することを目的とする。生理学的薬物速度論(PBPK)モデルを内因性基質に関して構築することにより、今までのような相関論にとどまることなく初めて定量的な予測が可能となる。平成29年度は、特にOATP1Bsの内在性基質として感受性・特異性が高いと推測されるコプロポルフィリンI(CP-I)を重点的な解析対象とした。PBPKモデル構築に必要な一部の速度論パラメータをヒト肝細胞(取り込み、排出クリアランス、細胞内結合率)およびOATP1B1/1B3発現細胞(リファンピシン阻害定数)を用いたin vitro試験により求めた。また、残りのパラメータは、非線形最小二乗法に基づいた臨床データに対する最適化計算(フィッティング)により求めた。平成28年度に実施した臨床DDI試験「リファンピシンによるスタチンおよび内在性基質の体内動態への濃度依存的影響」の血漿中濃度測定により得られたデータを用いて、CP-Iに対する影響をもとにin vivo阻害定数を最適化計算し、in vitro阻害定数の比を考慮した上でスタチンに適用することで、相互作用の説明を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に理研-P1クリニック-東大で共同実施した臨床試験において、OATP1B基質薬として4種スタチンをカセットで投与し、300 mgおよび600 mgのリファンピシン併用によるOATP1B阻害の影響を評価することを目的とした。得られた血漿サンプルを用いてスタチンおよび内在性基質(抱合・非抱合ビリルビン、胆汁酸、CP-I)の濃度を測定した。まずは、OATP1B内在性基質として感受性・特異性が高いと推測されたCP-Iに着目し、非相互作用時の定常状態(CP-Iの場合は日内変動が観察されず)を説明可能な理論式をクリアランス概念および体内物質収支を考慮して導いた。続いて、吉門らは肝OATP1Bsを介したDDIの解析に用いる標準的なPBPKモデルを以前に報告しているが、これをもとにCP-IのPBPKモデル構築を開始した。モデルに必要なパラメータのうち、一部はin vitro試験を実施して求めた。In vitro-in vivo補外の知見が得られているヒト凍結肝細胞を用いた細胞膜透過過程クリアランスおよび細胞内結合の評価と、OATP1B1/1B3発現細胞を用いたリファンピシンのOATP1B阻害定数の評価を実施した。これらを用いて、非線形最小二乗法に基づいた臨床データ(非相互作用時および相互作用時)に対する同時フィッティング(最適化計算)により、リファンピシンによるin vivo阻害定数を含む未知パラメータを求めて、CP-IのPBPKモデルを構築することに成功した。平成29年度はさらに、上記で得られたCP-Iに対するin vivo阻害定数と、in vitro試験で得られたCP-Iとスタチン間の阻害定数の比を考慮し、スタチンに補正したin vivo阻害定数を適用することで、スタチン血漿中濃度推移への相互作用による影響をシミュレーションしたところ、概ね観察データを説明可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に理研-九大-東大で共同実施した自主臨床試験では、OATP1B1の遺伝子多型(SLCO1B1 521T>C、機能低下型)で層別化(野生型、変異型ヘテロ、変異型ホモ)した被験者に、ピタバスタチン(OATP+胆汁排泄)、ロスバスタチン(OATP+胆汁排泄+尿排泄)、フルバスタチン(OATP+代謝+胆汁排泄)、アトルバスタチン(OATP+代謝)をカセットで投与し、血漿中濃度を測定した。平成30年度は、これらのデータをもとに遺伝子多型によるOATP活性低下率を計算し、内因性基質についてもこの活性低下率を適用して多型ごとの濃度推移をシミュレーションすることで、PBPKモデルが適切であるかをバリデーションする。さらに、CP-Iを含む内因性基質の測定データに基づいた統合的解析による複雑な薬物動態の予測を行う。平成26年度にP1クリニックおよび東京大学と共同で実施した別の自主臨床試験のデータを用いる。I期にOATP/CYP3A dual基質薬(レパグリニド、ボセンタン、シメプレビル等)とCYP3Aプローブ基質薬(ミダゾラム)をカセットで投与し、II期にカセットとOATP阻害薬(リファンピシン)、III期にカセットとCYP3A阻害薬(イトラコナゾール)を投与している。OATP/CYP3A dual基質薬のPBPKモデルをコントロール条件から構築し、内在性基質の血漿中濃度解析から得られた阻害定数(CYP3AについてはCYP3A内因性基質のデータから算出する)を補正して用いることで、相互作用時の血漿中濃度推移を予測できるか検討する。本研究を効果的に進めるために、臨床データ解析に基づいたモデル構築とin vitro試験によるパラメータ決定を並行して実施し、相互に弱点を補うことで、スケーリングファクターの検討等を効率的に実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は4月より理化学研究所から横浜薬科大学に異動し、実験よりもコンピュータを用いた解析(PBPKモデル解析)を重点的に実施したため、物品費としての使用が抑えられた。また、解析に最低限必要な実験は、理化学研究所の設備を客員研究員として使用することで実施することができたため、物品費を抑えることができた。平成28年度に実施した臨床試験で得られた既得のサンプル(血漿)を用いたことも理由である。さらに、平成29年度は日本薬物動態学会(JSSX)において本研究課題の進捗を発表したが、場所が東京であったため旅費がかからなかった。平成30年度は、多数のin vitro実験を実施するため、高価なヒト肝細胞、ヒト肝ミクロソーム等を購入する必要がある。また、理化学研究所から技術導入し横浜薬科大学で同等の実験ができるようにするために、複数の機器と消耗品を購入する必要があることから、物品費が150万円程度かかる見込みである。さらに、本研究課題の成果報告を少なくとも日本臨床薬理学会(京都)と日本薬物動態学会(金沢)で行う予定であるため、これらの旅費を計上する。最後に、現在執筆中の論文の英文校閲および投稿費用(オープンアクセス費用を含む)を計上するため、初年度よりも大幅に使用額が増える見込みである。
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