抗体などバイオ医薬品に含まれるタンパク質の「凝集体」は,免疫細胞の活性化や補体活性化を介して免疫原性など有害事象を引き起こすリスク因子の一つと考えられている.抗体医薬品の場合,多量体化した抗体のFc領域にC1qが結合することで補体活性化が起こると考えられるが,不溶性の凝集体でも補体活性化が起こるのか,また抗体以外のバイオ医薬品でも補体活性化が起こるのか明らかになっていない.本研究では,凝集体の形状や電荷など物理化学的な特性と補体活性化との連関を明らかにすることを最終目的に,①形状などの特性の異なる凝集体を安定して作製可能な調製方法を確立すること,②補体活性化の評価方法を確立し,凝集体の特性と活性化能との関連について考察することを目指した. 静注用免疫グロブリン製剤(IVIG),インフリキシマブおよびアルブミンに対し,加熱や撹拌など物理化学的な刺激を加え,フローイメージング法により形成された凝集体の形状および濃度を測定したところ,条件を詳細に検討することで,形状や透明度の異なる凝集体が得られることが分かり,少なくともIVIGについては形状の異なる凝集体を安定して調製可能な調製方法を確立した.また,タンパク質の種類によって,凝集体が形成されやすい条件や凝集体の形状も異なる傾向が見られた. 上記モデルタンパク質製剤について,血清及び血漿と反応させ,補体活性化による最終成分であるSC5b9の生成量をELISAにより測定したところ,70℃以上で加熱しFc部分が変性したIVIG試料においても,SC5b9が形成され補体経路が活性化される可能性が示された.アルブミンについても凝集体によって補体経路が活性化される現象が認められた.ただし,補体活性化の強度や形状による活性化能の違いについては一貫した傾向は得られておらず,血清及び血漿ロットや血漿の処理方法などの,さらなる最適化が必要と考えられた.
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