研究課題/領域番号 |
17K15538
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
岡野 大輔 弘前大学, 医学研究科, 助手 (00719023)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リンパ管 / 三次元培養 / 形態形成 / CD73 |
研究実績の概要 |
三次元積層培養リンパ管組織は、細胞外マトリックスタンパク質でコーティングしたリンパ管内皮細胞を、同様にコーティングした線維芽細胞でサンドイッチ状に挟むように培養して構築する。組織内にはリンパ管が平面的ではなく三次元的に展開している。タイムラプス・ライブイメージング解析の結果、培養開始直後には一層であったリンパ管内皮細胞が、培養開始から12時間前後にチューブ形成して初期のリンパ管ネットワークを構築した。そこから活動的な細胞が出芽・伸長して管腔領域を拡張し、二次的なネットワークを構築することが明らかになった。この三次元培養組織では培養開始から約12時間経過後にリンパ管チューブ形成、約24時間経過後に下層に向けてのリンパ管新生が起こるため、それらの研究モデルとして有用である。また、二次的な新生ネットワークを下層に構築するため、切片上で見たときにチューブ形成により構築されたものかリンパ管新生により構築されたものか見分けやすいことがわかった。 本年度はリンパ管形態形成運動およびリンパ管内皮細胞間の接着機能についてCD73の作用を解析する予定であったが、CD73阻害剤試験による作用機序の検討を先行して行った。三次元積層培養リンパ管組織では、CD73はリンパ管内皮細胞だけでなく線維芽細胞でも発現している。三次元積層培養リンパ管組織は線維芽細胞とリンパ管内皮細胞の共培養系であるため、どちらの細胞に発現しているCD73がリンパ管形成を阻害しているかわからなかった。そこで、リンパ管内皮細胞だけでリンパ管形成を見ることができるマトリゲル法を導入し、三次元積層培養リンパ管組織の結果と比較検討を行った。三次元積層培養リンパ管組織におけるCD73のリンパ管形成阻害効果は、線維芽細胞のCD73により生成されたアデノシンが線維芽細胞上のアデノシンレセプターに作用した結果であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、三次元積層培養リンパ管組織を用いて、リンパ管の形態形成運動に対するCD73の作用とリンパ管内皮細胞の細胞間接着機能に対するCD73の作用を解析する予定であった。三次元タイムラプス・ライブイメージングデータを複数のサンプルで同時に取得することを計画していたが、使用できる機器の仕様上、複数のサンプルを同時に撮影できないことが判明し、計画を変更した。計画練り直しに時間を要したため遅れが生じた。 研究の効率化のため、CD73ノックダウン試験に替わりCD73阻害剤試験を優先し実施した。また、マトリゲルによるチューブ形成アッセイで阻害剤試験を行い、CD73のリンパ管形態形成阻害効果について作用機序の検討を行った。CD73のリンパ管形態形成阻害効果が線維芽細胞により成されていることが示唆されたため、当初の計画ではリンパ管内皮細胞のアデノシンレセプターにのみ着目していたが、今後は線維芽細胞のCD73とアデノシンレセプターについても検討を行う。 リンパ管形態形成運動の解析のため、タイムラプス・ライブイメージングの結果についてより詳細に解析を行った。この三次元積層培養リンパ管組織では培養開始から12時間経過後にチューブ形成が起こり、24時間程度経過後に下層に向けてリンパ管新生が起こり、その後、新生したリンパ管に沿って管腔領域の拡大が起こるため、それぞれのイベントについて検討することが可能になった。リンパ管内皮細胞のトレースのため遺伝子導入については現在検討中である。 本年度にリンパ管内皮細胞の細胞間接着機能に対するCD73の作用について解析を行う予定であったが、平成30年度に実施するよう変更した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度問題となったタイムラプス・ライブイメージングの複数サンプルの撮影について、平成30年度初めに新たな撮影装置が共通機器として導入されるため、この装置を用いて撮影を行う予定である。解析はFijiとそのプラグインAngiogenesis Analyzerを用いて行い、統計処理にはRを使用する。また、必要に応じて別のアプリケーションの導入を検討する。CD73によるリンパ管形態形成阻害作用は、形態形成プロセスのうちどのプロセスが阻害されることによるものなのかをタイムラプス・ライブイメージングにより明らかにする。 また、リンパ管内皮細胞のトレースのため遺伝子導入について検討中であったが、緑色蛍光タンパク質と赤色蛍光タンパク質をそれぞれ導入したリンパ管内皮細胞を混合し三次元積層培養リンパ管組織を構築することで単一細胞のトレースを行う。リンパ管内皮細胞にはよく移動をする動的な細胞とあまり動かない静的な細胞が存在する。これらの細胞がどのような比率で存在し、形態形成プロセスが進むにつれて比率、細胞運動能や役割がどのように変化するのか、動的・静的な状態は変化しうるのか解析を行う。 リンパ管内皮細胞の細胞間接着機能に対するCD73の作用の解析については、それぞれの形態形成プロセスにおけるVE-cadherin、PECAM-1、ZO-1タンパク質の局在を免疫染色を行い解析する。 CD73のリンパ管形態形成阻害効果が線維芽細胞のCD73により成されていることが示唆されることから、リンパ管内皮細胞と線維芽細胞、両方のアデノシンシグナリングのリンパ管形態形成阻害効果を解析する。アデノシンレセプタータンパク質の局在を免疫染色で解析し、アデノシンレセプター阻害剤試験を行いリンパ管形態形成阻害効果の経路を検討する。必要であればsiRNAまたはshRNA Tet-On発現誘導によるノックダウンを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
単一細胞のトレースが計画通りに進行しなかったことや、リンパ管内皮細胞の細胞間接着機能に対するCD73の作用についての解析を平成30年度以降に実施するように変更したため、ベクターや抗体などの物品を本年度に購入しなかった。 次年度使用額は本年度に購入しなかったベクターや抗体などの購入へ充てる予定である。
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