研究課題/領域番号 |
17K15539
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
香川 慶輝 東北大学, 医学系研究科, 助教 (30728887)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脂肪酸結合蛋白質 / アストロサイト / 脂質ラフト / caveolin-1 / エピゲノム / 精神疾患 |
研究実績の概要 |
脂肪酸の摂取は脳の発達に非常に重要であり、その摂取障害は統合失調症などの精神疾患を引き起こす。しかし、その脳内分子基盤については不明である。本研究では、脳アストロサイトに強く発現し、その細胞内脂質動態を制御する脳型脂肪酸結合蛋白質 (Fatty acid-binding protein 7; FABP7)に着目し、その機能発現メカニズムの解明を目指している。 これまでに申請者らは、FABP7-KOマウスの脳内側前頭前野でニューロンの樹状突起の数、及びシナプスの数が減少している事、FABP7-KOアストロサイト由来の液性因子によるニューロンの支持機能が低下していることを新たに見出した (Ebrahimi M. et al. Glia. 2016)。また、FABP7が細胞外刺激応答において非常に重要な役割を果たす脂質ラフト(カベオラ)の機能制御に関与すること、脂質ラフトの骨格形成に重要な役割を果たすcaveolin-1蛋白質の発現を調節すること(Kagawa et al. Glia. 2015)を見出した。つまり、“FABP7蛋白質欠損による細胞内脂質動態異常により脂質ラフトを介した細胞外部刺激応答が変化し、恒常的にアストロサイトの細胞活性が低下し、神経可塑性変化が引き起こされる”ことが予想される。 そこで、FABP7による脂質ラフト機能制御機構の解析に加え、FABP7による脂質動態制御機構を明らかにすることで、脂質ラフトを介してFABP7が関与する精神疾患病態や癌バイオロジーの解明及びそれら疾患の治療創薬の開発に大きく貢献できると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
FABP7によるcaveolin-1遺伝子転写調節機構を詳細に検討している。caveolin-1転写調節領域におけるFABP7依存性の領域をルシフェラーゼアッセイで検討し、その領域のシークエンスを確認した所、エピゲノム変化の影響を受け易いCpG配列が豊富に存在した。バイサルファイトシークエンス法やヒストンアセチル化を特異的に認識する抗体を用いたクロマチン免疫沈降法による解析で、FABP7は細胞内の発現量に応じて、DNAのメチル化、ヒストンアセチル化を調節することが明らかになった。 FABP7はアストロサイトで細胞質・核に発現しており、特に核に強く発現している。この局在に着目し、FABP7に核移行・核外移行シグナルを付与したコンストラクトを用いて、過剰発現系細胞を作製した。FABP7を核局在させた時、caveolin-1の発現及びヒストンアセチル化レベルの増加が、一方で、FABP7を細胞質に局在させた時、その発現、ヒストンアセチル化レベルはコントロール細胞と同等であることが明らかになった。つまり、核内FABP7の発現量がエピゲノム変化を調節し、caveolin-1の転写を制御していることが考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究テーマにおいて、神経可塑性の変化に関与するアストロサイトFABP7の脂肪酸機能を解明することが必須の課題である。そこで、核内移行シグナルを付与したFABP7コンストラクトの“脂質結合ドメインに変異”を加えたコンストラクトを作製し、caveolin-1遺伝子発現およびcaveolin-1転写調節領域におけるエピゲノムの変化を検討する。さらに“脂質結合ドメインの変異”により表現型がキャンセルされた場合、核内でFABP7と結合する脂肪酸を質量分析で同定する。同時にFABP7と相互作用を持つ蛋白質を質量分析で同定し、さらにその相互作用に脂肪酸が関与するかどうかを検討する。コンストラクトは本年度中に作成が完了している。 また、FABP7の局在変化が及ぼす脂質ラフト(カベオラ)の形成変化を可視化するために、過剰発現細胞を用いて評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新たに購入した消耗品に加え、これまでに購入していたものを使用し、過剰発現ベクターの構築、過剰発現系細胞の作成など効率的に実施することが出来、次年度使用額が生じた。次年度は表現型解析のため、質量分析などの分子生物学的解析に多くの費用が必要となる。
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