研究課題
生体組織に存在する腫瘍性を持たない多能性幹細胞であるMuse細胞は直接血管内や局所に投与するだけで、傷害組織へ遊走・集積し、組織に応じた細胞に自発的に分化して組織修復を行う。Muse細胞は傷害組織から放出される遊走因子であるsphingosine 1-phosphate (S1P)を受容することで傷害組織特異的に遊走することが明らかにされているが、Muse細胞の遊走制御機構については十分に明らかにされていない。本年度は、Muse細胞の傷害組織への遊走の分子メカニズムを明らかにするために、Muse細胞の遊走を制御するmicroRNAの探索を試みた。四塩化炭素投与による肝障害モデルマウスの血清を用いたボイデンチャンバーによる遊走試験において、骨髄間葉系幹細胞由来Muse細胞を肝障害モデルマウスの血清に曝露すると、曝露後24時間までにMuse細胞以外の間葉系幹細胞(非Muse細胞)に比べ高い遊走能を示した。次に、接着状態または浮遊状態のMuse細胞を肝障害モデルマウスの血清に曝露し、12時間後のmicroRNAの発現をマイクロアレイにて網羅的に解析した。その結果、接着状態と浮遊状態で変動するmicroRNAのパターンは異なること、接着状態に対して、浮遊状態においてより多くのmicroRNAが変動することが明らかになった。生体に投与されたMuse細胞は浮遊状態であることから、浮遊状態のMuse細胞におけるmicroRNAの発現変動がより生体の状況を反映していると考え、現在、浮遊状態のMuse細胞における肝障害モデルマウス血清曝露後のより早期のmicroRNAの発現解析と変動したmicroRNAのターゲット遺伝子の選定を進めている。
3: やや遅れている
本年度は肝障害モデルマウスの血清曝露によるMuse細胞内のmicroRNAの変動を確認することができた。また、接着状態と浮遊状態におけるmicroRNAの発現変動に大きな違いがあることも見出された。生体に投与されたMuse細胞は浮遊状態であることから、浮遊状態のMuse細胞におけるmicroRNAの発現変動がより生体の状況を反映していると考えたことから、浮遊状態のMuse細胞についてより詳細な解析が必要であると考えられる。また、遊走に関わるmicroRNAの選定には、肝障害モデルマウス血清曝露後のmicroRNAの一時的な変化だけでなく、経時的な変化をとらえる必要があると考えられたことから、現在より早期のmicroRNAの発現解析を行っている。
本年度は現在進めている浮遊状態のMuse細胞に肝障害モデルマウスの血清を曝露し、曝露後12時間より早期のmicroRNAの発現変動を解析し、特に発現の変動が大きい因子を同定する。同定したmicroRNAをMuse細胞に導入またはinhibitorにより阻害し、遊走関連因子への影響を遺伝子発現解析やボイデンチャンバーを用いた遊走試験における遊走効率を評価する。特に遊走効率を亢進させる因子が同定された場合、その因子を導入したMuse細胞を肝障害モデルマウスに移植し、生体内での遊走効率を評価する。
本年度はマイクロアレイ解析に使用するサンプルについて詳細な条件検討を行ったことから、当初計画していたmicroRNAのマイクロアレイ解析が本年度中にすべて終わらなかった。また、接着状態と浮遊状態のMuse細胞におけるmicroRNAの発現変動に大きな違いがあることやmicroRNAの発現について経時的な変化をとらえる必要性が生じたため、遊走に関連するmicroRNAの選定を行うことができなかったため、これらについては現在サンプルを調整しており、次年度に行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Circulation research
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