本研究は,走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)を用いて,生きた細胞の頂上膜面の細胞質突起の3次元ダイナミクスの解析し,そのダイナミクスと細胞運動の関係性を解明することを目的としている。上記の目的のために本年度は,以下に示す課題に取り組んだ。 1. 細胞質突起の画像解析による抽出方法の検討: 細胞質突起構造は細胞全体の全高に対し微小な突起構造であることから,昨年度に引き続き,本実験に適した画像解析による突起構造の抽出方法の検討をおこなった。 2. がん細胞の悪性化と細胞質突起の構造観察: 前年度までの成果である空間分解能,時間分解能を向上させた改良型SICMを用いて,がん細胞の悪性化と細胞質突起の構造観察および解析について取り組んだ。がん細胞の悪性度は,細胞移動能と関連しており,細胞骨格や細胞接着によって制御されている。改良型SICMを用いて悪性度の異なる細胞の細胞質突起の構造の観察,および取得した画像を解析することに成功し,がん細胞の悪性度によって細胞質突起構造やダイナミクスが大きく異なることが明らかとなった。 3. 走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM),蛍光顕微鏡のよる相補分析: SEMやTEM,蛍光顕微鏡といった他の顕微鏡技法により取得した画像を相補的に用いた。SEM像からはSICM観察における適した測定条件の確認,TEM像や蛍光顕微鏡像からは悪性度の異なる細胞の細胞接着分子細胞骨格の分析をおこなった。それらにより細胞質突起のダイナミクスは細胞骨格や細胞接着と関連する細胞運動と密接に関係していることが示唆された。
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