研究実績の概要 |
卵管上皮の細胞分化を調節する分子メカニズムを明らかにするために、ブタ卵管から上皮細胞を分離し、in vitroで初代培養する実験手法を確立した。この方法で、エストロゲン(E2)が繊毛細胞を誘導する結果を得ていた。 (1)繊毛細胞分化におけるエストロゲン受容体の特異性 卵管上皮繊毛細胞の分化におけるエストロゲンの分子メカニズムを明らかにするために、エストロゲン受容体ERalpha, ERbeta, GPR30に対する各々のアゴニストPPT, DPN, G-1を投与し、繊毛細胞分化を検討した。すると、DPNを2週間投与した場合にのみ、E2と同様の繊毛細胞分化誘導を示した。このことからERbetaが繊毛細胞の分化に関与していることを強く示唆した。一方で、プロゲステロンの同時投与はエストロゲンの繊毛誘導効果に大きく影響を与えなかった。 (2)繊毛細胞分化におけるエストロゲン経路とNotch経路の相互作用 卵管上皮繊毛細胞分化はNotch経路の抑制で誘導されることはすでに報告されていた(Kesslerら,Nat. comms. 2015)。そこでエストロゲン経路とNotch経路の相互作用に関して調べた。Notch阻害剤DAPTをE2投与の前に3、5、10日間処理した場合に、繊毛分化にどのように影響を及ぼすかを検討した。すると、DAPTを5日間処理後、10日間E2処理した場合に、E2のみ処理した場合と比較して有意に繊毛細胞への分化率が増加した(35% vs 18%)。一方で、E2処理24時間後のNotchリガンドであるDll1, Jag1, Jag2の発現をQPCRで調べると、Dll1が有意に減少していた。このことは、Notchシグナルの抑制はエストロゲンの繊毛誘導効果を促進させ、さらにエストロゲン経路はNotchリガンドの発現を低下させ、Notchシグナルを抑制していることがわかった。
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