昨年度は、ブタ卵管初代培養分化システム用いて、エストロゲン(E2)が繊毛細胞を誘導することを明らかにし、E2処理はNotchシグナルの抑制をすることにより、線毛細胞への分化を促進することを示していた。本年度はさらに詳細解析を行なった。E2単独による繊毛細胞の分化誘導は、20%程度の効率であり、分化誘導または抑制に関わる他の因子の関わりを考慮する必要があった。気管上皮における繊毛細胞誘導にはEGFシグナルが関わっており、その抑制が繊毛細胞を誘導することが過去に報告されていた。卵管上皮でも同様の機構が働いているかどうかを検討するために、EGFR阻害剤ゲフィチニブを未成熟卵管上皮細胞に投与し、数日間の分化誘導を行なった。するとゲフィチニブ追加投与群では、E2単独に比べて優位に繊毛細胞誘導が増加した(21%→53%)。一方で、NotchのリガンドであるDLL1の発現は、ゲフィチニブ単独投与群に比べE2+ゲフィチニブ投与群でさらに低下していた。DLL1の減少に伴い、NICDの量も低下していたことから、E2+ゲフィチニブ投与群においてはNotchシグナルが強く抑制され、繊毛細胞形成の高効率の誘導につながったと考えられる。従って、NotchシグナルははE2に依存する経路とEGFに依存する経路の独立の2方向により制御されていることが示された。同時に、E2処理された細胞群では、運動繊毛の誘導に関わる転写因子Foxj1の発現は上昇していたことから、 エストロゲン経路は直接または間接的にFoxj1の発現も制御していることが示唆された。以上の結果から、卵管上皮においてはエストロゲン経路は、EGFにより促進されるNotchシグナルを抑え、Foxj1の発現を促進することで繊毛細胞への分化が誘導されることが明らかになった。
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