真核生物が持つ主要な分解系であるオートファジーは細胞内の恒常性維持において重要な役割を果たしている。オートファジーによる分解を実行する二重膜小胞であるオートファゴソームの形成機構は未解明な部分が多く、特に膜脂質の供給が如何にして行われているかは大部分が未知である。本研究では、生体膜の主要な脂質であるホスファチジルコリン(PC)の合成において律速酵素として働くCTP:phosphocholine cytidylyltransferase(CCT)が如何にしてオートファゴソーム形成に寄与しうるか明らかにすることでオートファゴソームへの膜脂質供給機構を解明することを目的としている。 研究代表者はコリンのアナログであるプロパジルコリンを用いてPCの可視化を行い、長時間の飢餓条件において新規合成PCがオートファゴソーム膜に取り込まれること、その現象にKennedy経路の律速酵素CCTβ3が関与していることを明らかにした。またマウス繊維芽細胞におけるCCTβ3が、1)長時間飢餓条件において脂肪滴へとリクルートされる、2) CCTβ3がリクルートされた脂肪滴近傍からオメガソーム、オートファゴソームが形成される、3) MEF細胞においてCCTβ3の発現量を抑制することで長時間飢餓時のオートファジー活性が減少する、などの現象を見出した。これらの結果は、飢餓時間が延長するに従ってオートファゴソームへの脂質供給機構が変化することを示唆している。従来の研究では飢餓などの条件が長時間にわたって続く際にオートファジーがどのように維持されるかについては検討されておらず、その生理的な役割もまた不明であったが本研究により、短時間の飢餓条件下では活性があまりなく、長時間飢餓条件時に機能するオートファジー維持機構の存在が示唆された。
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