常染色体優性多発性嚢胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease; ADPKD)は、進行性に多数の腎嚢胞が形成されることにより腎腫大が生じ、末期慢性腎不全に至る疾患である。現在までのところ、透析療法や腎移植などの腎代替療法に加え、嚢胞の増大を抑制する対症療法が施されているが、嚢胞形成を根本的に阻害する治療法は確立されていない。ADPKDに対する新規治療薬を探索するためには、腎嚢胞形成を再現する新規in vitro病態モデルの開発が必要である。 ADPKDにおける腎嚢胞は、尿細管および集合管に由来し、集合管からより多くの嚢胞が形成されると考えられている。そこで、ヒトiPS細胞から集合管を作製することが適切な病態モデル作製につながるのではないかとの着想に至った。そこで、平成29年度は、ヒトiPS細胞から集合管を派生させる胎生組織である尿管芽を分化誘導する方法を開発した。しかし、作製した尿管芽は、その特徴である分枝がほとんど認められなかった。 分枝形態形成は、胚発生において、腎臓だけでなく様々な器官形成に必要なプロセスである。普遍的に、間葉細胞と上皮細胞の相互作用が分枝形態形成を促すことが知られているが、各器官は少しずつ異なる細胞機構を有しており、それぞれが特徴的な分枝パターンを有する。尿管芽では常に内腔が存在しながら分枝が生じるが、既報の分化誘導法を用いてヒトiPS細胞から作製した尿管芽構造には内腔は認められない。これらのことから、平成30年度は内腔を有する尿管芽オルガノイドを作製し、分枝形態形成を行うか否かを検証することを試みた。さらに、尿管芽オルガノイドから集合管細胞を選択的に作製する方法の開発も行った。 また、ADPKDの原因遺伝子であるPKD1をノックアウトしたヒトiPS細胞を樹立し、集合管細胞への分化誘導を行った。
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