研究課題/領域番号 |
17K15549
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
富澤 信一 横浜市立大学, 医学部, 助教 (00704628)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / 生殖細胞 / 幹細胞 / 分化 / クロマチン |
研究実績の概要 |
本研究は哺乳類の精子幹細胞集団の維持と分化機構を最新の次世代シークエンサー技術を応用して解明することを目的とするものである。 精子幹細胞は精子形成を長期的に支える上で重要な役割を果たしていることが知られている。精子幹細胞研究においてはこれまでに幹細胞を含む集団に特異的に発現すると考えられるマーカー分子が複数同定されており、培養系を用いた研究手法も確立されている。ところが、真の精子幹細胞が実際にどの細胞に相当するのかという疑問についてはいまだに議論が続いている。さらに、幹細胞の分化を制御する分子機構はほとんど未解明である。申請者の所属研究室ではこれまでに、精子幹細胞のエピジェネティックな状態の大きな変化が幹細胞分化と密接に関与していることを示した。本研究ではこのエピジェネティックな分化制御機構や遺伝子発現の変化をさらに詳細に解析することで、真の精子幹細胞の同定や精子幹細胞分化に関与する新規遺伝子の同定を目指している。 本研究課題ではこれまでに、1細胞解析技術(シングルセル解析)を応用し、未分化な精原細胞(Kit-)と分化型の精原細胞(Kit+)それぞれの集団における細胞の多様性を調べた。シングルセルRNA-seq (scRNA-seq)を実施した結果、それぞれの集団の遺伝子発現状態に一定の多様性が存在することが確認できた。つまり、Kit-、Kit+の集団はそれぞれが性質の異なる細胞の集団から構成されていることが示唆された。また、シングルセルM&T-seqによる1細胞レベルのDNAメチル化解析手法の実験を検討し、実験系を再現させることができた。今後はこれらのデータ解析を通し、細胞集団と幹細胞性の関連や、精子幹細胞分化機構の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では現在までに、マウスの未分化精原細胞(Kit-)および分化型精原細胞(Kit+)をシングルセルソートし、それを用いてscRNA-seq解析を実施することができた。その結果、Illumina社HiSeqシークエンサーを用いて得られたデータのクオリティは良好であり、それぞれの細胞集団のマーカー遺伝子の特異的な発現が確認できたため、高品質なデータが得られていると考えられた。一方で、scM&T-seqの実験を実施し、次世代シークエンサーデータを解析したところ、問題なく実験系が再現できており、データの品質も良好であることが確認できた。これらのことから、本研究は当初の計画に則りおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのシングルセルの実験結果を踏まえ、今後はシングルセルソートした未分化精原細胞(Kit-)および分化型精原細胞(Kit+)を用いたscM&T-seqを行う。これにより、精原細胞においてDNAメチル化と遺伝子発現がどのように相関しながら精子幹細胞集団が維持され、分化へと導かれるのか調べることを計画している。精原細胞は細胞分裂後も細胞質同士が鎖状に繋がっている性質があり、細胞の鎖長と分化度の間には関連性があることが知られている。今回の研究では、特に鎖長が幹細胞性とどのような関係があるのかという視点からシングルセルデータを解析し、真の幹細胞の同定や分化に重要な働きをすることが予想される遺伝子の同定を進め、全体として精子幹細胞分化機構の解明につなげたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の経費はほぼ予定額使用しており、次年度も少額の残額と合わせて計画通り使用する予定である。
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