申請者らはこれまでに神経シナプスにおいて、平面内細胞極性(PCP)因子Vangl2と細胞接着分子Nカドヘリンが直接相互作用してNカドヘリンのエンドサイトーシスを促進させることを示した。この相互作用が他器官でも機能しているかを調べるために、Vangl2変異マウスとNカドヘリンノックアウトマウスを交配せた。その結果、ダブルヘテロ変異を持つ胎児の約8割で神経管閉鎖異常である二分脊椎症様の脊椎開放が観察された。また、ダブルヘテロ変異マウスの脊椎解放が病理的にヒトの二分脊椎と同様なものであることをヘマトキシリン/エオジン染色により示した。神経管閉鎖が起こるマウスE8.5胚で、Nカドヘリンおよび、Vangl2の遺伝子発現とタンパク質発現をそれぞれin situ hybridization法、免疫蛍光染色により解析したところ、Nカドヘリン遺伝子、Vangl2遺伝子ともに神経板に強く発現していることが分かった。また、免疫蛍光染色においても、神経板細胞の接着部位で部分的に共局在していることが分かった。 さらに、この相互作用を生化学的に解析する過程で、ヒト由来細胞株においてVangl2がPrickle2のユビキチン化を促進させ、その分解を促進することを示した。この機能はショウジョウバエでは示されていたが、我々は、哺乳動物でもVangl2に同様の機能があることを示唆した。しかし、ショウジョウバエと異なり、哺乳動物のVangl2によるPrickle2のユビキチン化はPrickle2の膜結合ドメインに依存しないことを示唆した。 これらの結果から、Vangl2とNカドヘリンの相互作用は神経管閉鎖にも影響しうることが示唆される。今後、二分脊椎の発症にこの相互作用がどのように関与するかを調べることで二分脊椎の発症機序や病態解明につながると考えられる。
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