研究実績の概要 |
乳汁分泌には乳腺分泌細胞膜上の非選択的陽イオンチャネル(NSCC)を介した経上皮電解質輸送が重要な役割を果たすと考えられる。NSCCの機能的発現とそれを担う分子を明らかにするため、泌乳期マウスの乳腺から単離した乳腺分泌細胞にホールセルパッチクランプ法を適用して取得した膜電流について検討を行った。Cs, Na, K, Rbなど複数の一価陽イオンの透過性が認められ、イオン選択性の低い陽イオンチャネルの機能的発現が示唆された。膜電流を担う分子特定のために、細胞内外の二価陽イオンの膜電流への影響など電気生理学的な特性の検討を進めている。また、NSCCであるTRPファミリー分子の泌乳期乳腺における発現についてRT-PCR法を用いて検討した。検討した25種のTRPファミリー分子のうちTRPV2, TRPV4,TRPM4, TRPM7、TRPP2の明瞭な発現を認めた。乳腺分泌細胞で機能的に発現するNSCCの同定には至っていない。 近年TRPファミリー分子とCa活性化ClチャネルであるTMEM16Aの分子間相互作用、機能的相互作用が相次いで報告されている。私たちはこれまでに乳腺分泌細胞におけるTMEM16Aの機能的発現を明らかにしており、TRPファミリーとの関係性を明らかにすることも将来的な課題となると考えた。そこで、マウス乳腺に発現するTMEM16A分子のクローニングを進めたところ、これまで報告されていないマウスTMEM16Aの新規バリアント(5'末端配列のバリアント)を見出した。また、mRNA5'端配列の多様性がタンパク質N端配列の多様性につながる可能性を示す実験結果を得た。NSCCとの相互作用を理解するための知見となることが期待される。
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