眼内平滑筋の自律神経刺激に伴う収縮の持続相は、他の多くの平滑筋の場合と同様、細胞外からのCa2+流入を必要とするが、その分子実体に関してはこれまでの研究からいくつかの候補があるものの、その詳細はいまだわかっていない。本研究では細胞外からのCa2+流入を担う候補分子としてTRPC3 とTRPC6 に着目し、TRPC3およびTRPC6のノックアウト、野生型、さらにTRPC3とTRPC6のダブルノックアウトを加えた4系統のマウスにおいて光刺激における瞳孔の収縮を観察、すなわち対光反射実験を行った。あらかじめ暗所で暗順応させたマウスにLEDの光刺激によって対光反射を誘発させ、その際の瞳孔径の変化を赤外線から可視光まで記録可能なCMOSカメラを用いて記録した。その後、画像データを解析することで対光反射時における縮瞳の時定数、散瞳径および縮瞳径を求めた。その結果、散瞳径および収縮の時定数では系統による差異はほとんどみられなかったものの、縮瞳径においてTRPC3のノックアウトマウスは野生型を含めた他の系統との比較において、有意に小さくなる傾向がみられた。瞳孔径は瞳孔括約筋と瞳孔散大筋によって調節されているが、今回の結果はTRPチャネルのノックアウトが瞳孔括約筋に直接的な影響を与えているとは考えにくく、むしろ瞳孔散大筋の収縮調節にTRPC3がなんらかの形で関与しており、ノックアウトによってその影響が弱まることで瞳孔括約筋の収縮の効果をより強く反映しているという可能性を示唆するものである。
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