本研究は『野生型および2種類の遺伝子改変マウスの脳底動脈とくも膜下出血(SAH)モデルを用いて、組織・生体レベルで、スフィンゴシルホスホリルコリン(SPC)/Fyn/新規分子X/Rhoキナーゼ経路がSAH後の遅発性脳血管攣縮の治療標的分子である可能性について検証すること』を目的とした。 SAHモデルとして、野生型マウスの大槽くも膜下腔に自家血を注入した。その後脳血流を測定し、自家血注入前と比較して有意に脳血流が低下することを確認し、脳血管攣縮モデル作製に成功した。 ワイヤーミオグラフを用いて、マウス脳底動脈の等尺性収縮張力測定法を確立した。野生型マウス、Fyn KOマウス、新規分子XのコンデショナルKOマウスの脳底動脈、前腸間膜動脈を用いて、SPC誘発収縮を検討した。野生型マウスの脳底動脈はSPCにより収縮を引き起こした。脳底動脈におけるSPC誘発収縮の大きさに雌雄差、週齢差は見られなかった。野生型マウス(54週齢以上)の前腸間膜動脈はSPC誘発収縮を惹起し、Fyn KOマウス(53週齢以上)の前腸間膜脈も同様だった。Fyn KOマウスの脳底動脈のSPC誘発収縮張力の大きさは野生型マウスと比べ変化はなかった。エイコサペンタエン酸の前処置はFyn KOマウス前腸間膜動脈においてSPC誘発収縮を有意に抑制した。 結論として、SPC誘発収縮にはFyn以外のSrcファミリーキナーゼや未知シグナル分子が関与している可能性がある。
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