研究課題
【目的】交感神経系の制御は心不全,不整脈治療において極めて重要な位置を占めており,現在主に用いられているのはβ遮断薬である.しかし,β遮断薬はβ-アドレナリン受容体を介するシグナル全体を抑制してしまうため,有用な作用である基本的な心機能維持まで抑制し,心不全を逆に増悪させてしまう副作用がしばしば大きな問題となる.我々はこのカテコラミンの作用のうち,有害な作用を仲介している分子としてEpac1を標的とすることで,副作用の少ない,安全で有用な心不全,不整脈治療の確立する. 【実験方法と結果】Epac1選択的阻害剤(CE3F4)の不整脈発症抑制作用を,細胞実験と動物実験において評価した.マウスの心臓から抽出した心筋細胞で,不整脈発症の原因とされている,カテコラミン刺激による筋小胞体(SR)からのCa2+リークやそれによって生じる自発的Ca2+放出(SCR)の程度へのCE3F4の作用を観察した.CE3F4はノルエピネフリンによるCa2+リークやSCRの増加を有意に抑制した.また,マウス不整脈モデルを用いて,CE3F4よる不整脈治療の効果を動物実験で検討した.臨床において極めて重要な不整脈である心房細動と心室性不整脈のマウスモデルにおいて,CE3F4はβ遮断薬と比較しても同等に不整脈の抑制効果を有することが明らかとなった.加えて重要なことに,不整脈に対して,β遮断薬と同程度の効果がみられる用量で,CE3F4は心機能にほとんど影響を及ぼさなかったのに対し,β遮断薬は心機能の有意な低下を認めた.【考察】我々の検討結果は,Epac1阻害剤がβ-遮断薬の問題点を克服でき,安全な不整脈治療薬となりうる可能性を示すものであった.この結果を踏まえ今後は,β遮断薬による治療の有効性が確立している心不全などについても Epac1阻害剤の効果を検討し,本薬剤の有用性を検討していく予定である.
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