肝星細胞の持続的活性化は肝線維化さらには肝硬変を引き起こすため、肝星細胞の活性抑制を目指した研究が精力的に行われているが未だ有効な薬剤はない。これまで肝星細胞の活性化因子は炎症時に産生されるTGFβなどのサイトカインが想定されてきた。しかし肝星細胞はマウスから単離培養するだけで、すなわちサイトカインの存在なしでも自然に活性化する。従って他の活性化因子の存在が想定される。我々は正常肝では肝星細胞が肝細胞と接着結合しているのに対し障害肝ではこの接着結合を喪失していることを発見し、この細胞接着結合がメカノトランスダクションを介して肝星細胞の活性化をコントロールしているのではないかと考えた。 本研究において間葉系細胞の一つである肝星細胞が主に上皮系細胞に発現するEカドヘリンを発現し、このEカドヘリンを介して肝細胞と接着結合することを発見した。またこの接着結合がメカノトランスダクションの1つであるYAP/TAZ経路の抑制を介して肝星細胞の活性化を制御すること、また肝障害時にはこの接着結合を喪失によるYAP/TAZ経路の亢進が肝星細胞活性化の一翼を担うことを明らかにした。 また肝がんの重要なリスクファクターである肝硬変時には低ナトリウム血症が生じ類洞は低浸透圧環境となるため細胞内に細胞外液が流入し細胞膨張によるメカノトランスダクションが引き起こされる。肝がん患者の血清ナトリウム値とがんの大きさや予後が逆相関することから、この低浸透圧環境が肝星細胞や肝がん細胞に何らかの影響を与えているのではないかと考えた。本研究で、この低浸透圧が浸透圧受容体TRPV2を介してAKT経路が活性化し肝星細胞や肝がん細胞のアポトーシスを抑制することで肝がん細胞増殖に寄与していることを明らかにした。 本研究成果は肝星細胞活性あるいは肝がん増殖の抑制を介した新規肝硬変・肝がん・治療薬開発に寄与すると考えられる。
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