研究課題/領域番号 |
17K15562
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
荒井 格 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (00754631)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 小脳 / デルタ型グルタミン酸受容体 / Dセリン / 細胞外カルシウム濃度 / 長期可塑性 / 平行線維シナプス / 記憶・学習 / シナプス伝達 |
研究実績の概要 |
中枢神経系において、シナプスは情報処理の基本単位であるが、神経活動に応じて様々な可塑性変化を受ける。Ca2+等の細胞外イオンは神経活動の亢進に伴って変化することが知られているが、シナプス伝達にどのような影響を及ぼすのかあまり解っていない。δ2型グルタミン酸受容体(GluD2)は小脳平行線維シナプスに発現し、Dセリンと結合してシナプス可塑性を制御する。GluD2にはリガンド結合領域にCa2+結合部位があり、Dセリンとの親和性を制御していることがin vitro実験で既に報告されている(Hansen et al. 2009)。本研究課題では、Dセリン―GluD2シグナリングが、細胞外Ca2+によって生理的にどのような影響を受けるのかを解析し、新規シナプス制御機構の解明を目指す。 本年度は、まず先端モデル動物支援プラットフォームの支援を受け、GluD2のCa2+結合部位近傍に点変異を導入したノックイン(KI)マウスをCRISPR/Cas9システムによって作製に取り組んだ。Ca2+の結合を阻害する変異GluD2(D782A)と常時Ca2+が結合した状態を模倣する変異GluD2(D782C+E531C)の2種類を設計した。次年度はこれらを使って電気生理学実験、行動解析を行い、Dセリン―GluD2シグナリングへの細胞外Ca2+の影響を明らかする予定である。 また、野生型マウスを使った電気生理学実験も並行して行った。幼若期のマウス小脳から急性スライス標本を作成し、プルキンエ細胞にホールセルクランプ法を適用し、平行線維シナプスのDセリン―GluD2シグナリングによる長期抑圧応答(LTD)を記録した。Dセリン投与時に細胞外Ca2+濃度を低下させると、LTDが増大する可能性が示唆された。このことは、Dセリン―GluD2シグナリングが細胞外Ca2+濃度によって制御されている可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主に幼若期の野生型マウスから作成した急性スライス標本による電気生理学実験によって細胞外Ca2+濃度が、小脳平行線維シナプスにおけるDセリン―GluD2シグナリングに影響を及ぼす可能性について示唆を得た。また、2種類のKIマウス(GluD2のリガンド結合部位近傍におけるCa2+結合を模倣した変異GluD2とCa2+結合能を欠落させた変異GluD2をそれぞれ持つマウス)の作製にも取り組んだが、現在順調に進んでおり、次年度に計画している電気生理実験や行動解析に予定通り取り組める状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、引き続き①小脳急性スライス標本を使った電気生理学実験に取り組むことに加え、②ローターロッドテスト等の行動解析に取り組み、Dセリン―GluD2シグナリングの細胞外Ca2+濃度依存性について、その機能的意義を神経回路レベルだけでなく、個体レベルでも明らかにしていく。①では、野生型マウス、現在作成中のKIマウスを使い、Dセリン投与、細胞外電気刺激などの手法を組み合わせて平行線維シナプスのLTDを指標に詳細に検討する。②については主としてKIマウスを使って実験を行い、細胞外Ca2+による調節機構が小脳性運動学習にどのような影響を及ぼすかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度購入したニコン製正立顕微鏡について、手持ちの部品を一部使いまわすことができたので、当初予定金額よりも安く購入することができた。そのため当該助成金が発生したが、次年度分として請求した助成金と合わせて、使用する予定である。具体的には、実験に必要な動物、その飼育資材、また実験に必要な試薬等の消耗品の費用を拡充する予定である。
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