δ2型グルタミン酸受容体(GluD2)は小脳平行線維シナプスに発現し、Dセリンと結合してシナプス可塑性を制御する。GluD2にはリガンド結合領域にCa2+結合部位があり、Dセリンとの親和性を制御していることがin vitro実験で既に報告されている(Hansen et al. 2009)。本研究課題では、Dセリン―GluD2シグナリングが、活動依存的な細胞外Ca2+濃度変化によって生理的にどのような影響を受けるのかを解析し、新規シナプス制御機構の解明を目指した。 本年度は、野生型マウス及び、昨年度作製したGluD2のCa2+結合能を阻害した変異型GluD2のノックインマウス(D782A KIマウス)を使って電気生理学的実験を行った。 幼若期の野生型及びD782A KIマウスから小脳の急性スライス標本を作製してプルキンエ細胞にホールセルクランプ法を適用し、平行線維シナプスのDセリン―GluD2シグナリングによる長期抑圧応答(DセリンLTD)を記録した。DセリンLTDは、野生型マウスではDセリン投与時に細胞外Ca2+濃度を高くすると抑制される一方、低くすると亢進した。また、D782A KIマウスではCa2+濃度に依存せずDセリンLTDが亢進していることが分かった。 生理的条件において、平行線維シナプスが亢進すると周囲を取り囲むバーグマングリアからDセリンが放出されてDセリンLTDが起きる。そこで平行線維シナプスに高頻度電気刺激を繰り返し与えたところ、DセリンLTDが誘発された。一方、細胞外にCa2+緩衝剤BAPTAを投与した条件下で同様の実験を行ったところ、DセリンLTDは抑制される傾向を示した。 これらの結果から、Dセリン―GluD2シグナリングは、平行線維シナプスの活動依存的な細胞外Ca2+濃度変化によって制御されるという、新規シナプス制御機構の存在が示唆された。
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