平成30年度は、3つの目的・計画を達成した。 ①の創傷治癒時の血管新生全過程の解明では、血管1本の創傷、真皮までの浅い創傷、筋肉層までの深い創傷における血管新生の解析を繰り返し、どの場合でも、残存した損傷血管からの活発な伸長と側枝の出芽・伸長が創傷部を覆い、伸長吻合後1-2週間程度、内皮細胞とペリサイトの過増殖が起こり、その後1-3ヶ月かけて両者とも創傷前の血管と同じぐらいの数に減少することを示した。さらに、ゼブラフィッシュ成魚の血管網へのペリサイトの被覆の全容も明らかにした。特に、損傷血管の再生時にペリサイトも内皮細胞に対して6-12時間程度の遅れだけで遊走・増殖することを見出したことは、これまで血管の伸長はペリサイトの血管壁からの剥離によって起こるとされてきた概念を覆す発見であった。 ②の血管修復と組織修復の相互作用の解明では、損傷した組織が虚血に陥って産生する血管内皮増殖因子Vegfの血管修復への影響を明らかにした。創傷皮膚にVegfシグナルの阻害剤を投与したところ、損傷血管の伸長再生は抑制された。この時、損傷血管の血流に対して上流側・下流側ともに伸長が抑制された。すなわち、上流側と下流側の伸長の違いは、Vegfではなく内腔圧による可能性がますます高くなり、③の研究の重要性が増した。 ③の損傷血管の上流側と下流側の伸長の違いと内腔圧の関連の解明では、当初の目的・計画以上に進み、内腔圧がかかる上流側では、先端が伸展されて、伸展刺激が、アクチンを減少させ、その結果内皮細胞の伸長を誘導するラメリポディアの形成が阻害されることにより、血管の伸長が起こりにくいことを明らかにした。さらに、伸展刺激やラメリポディア形成に関与する遺伝子を複数同定し、それらの機能を調べ始め、次の研究の基盤を築いた。
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