電位作動性カリウムチャネルであるhERGチャネルは、脱活性化が極めて遅いという機能的特徴をもつ。また、ホモ4量体として機能し、各サブユニットのC末端細胞内領域に存在するCリンカードメイン(CLD)と環状ヌクレオチド結合相同ドメイン(CNBHD)との間で、2対の静電相互作用を形成するという構造的特徴をもつ。 これらの静電相互作用を打ち消す変異の導入は、脱活性化を著しく加速させる。本研究はこの機序を解明すべく、2対のCLD-CNBHD間静電相互作用に焦点を当て、遅い脱活性化の制御に関するhERGチャネルの構造機能連関の解析を実施した。 アフリカツメガエル卵母細胞を用いた二電極膜電位固定法による解析は、2対の静電相互作用がいずれも同一サブユニット内で形成されること、また、脱活性化の速度が各静電相互作用の個数に応じて変化し、正常な機能の維持には4つのサブユニット全てに2対の静電相互作用の形成が必要であることを明らかにした。 培養細胞を用いたForster Resonance Energy Transfer(FRET)解析は、変異導入によりCLD-CNBHD間静電相互作用を打ち消した際、CNBHDとN末端細胞内ドメイン(EAGD)との間で形成されている別の相互作用が、著しく減弱することを示した。このCNBHD-EAGD間相互作用は、遅い脱活性化の制御機構において中心的な役割をもつ。すなわち、CLD-CNBHD間静電相互作用を打ち消すことで生じる脱活性化の加速の機序が、CNBHD-EAGD間相互作用の減弱を伴うhERGチャネル分子の構造変化に起因することを示唆する。 さらに、このFRET解析を応用した実験の結果、正常なhERGチャネルにおけるCNBHD-EAGD間相互作用は、膜電位依存的な構造変化を示さないことが明らかになった。
|