研究実績の概要 |
光遺伝学的手法を用いることで、細胞腫や投射経路を選択的にコントロールする事が可能となった。ごく最近になって、この手法を用いて、記憶の固定化や想起に関わる領野間投射に着目した研究が報告されはじめている(Priyamvada et al., Nature 2015; Boyce et al., Science 2016)。しかし、これらは光遺伝学的手法を用いて投射細胞の活動を単にコントロールしただけであり、“シナプス前細胞のどういった神経活動が必要で、これを受け取るシナプス後細胞がどのような活動を起こすことが記憶の固定化(または想起)に必須なのか”という本質的な疑問は、未解明のままである。本研究では独自に発見した触知覚に関わるトップダウン回路(Neuron 2015)を記憶の固定化の皮質間モデル(Science 2016)として、この核心的な問いの解明を目指す。そのため、先行研究を基盤とし、神経細胞上の樹状突起スパインが学習・記憶に伴い増大することに着目し、触知覚記憶の固定化に関わる皮質トップダウン投射活動、この受け手である皮質5層神経細胞の樹状突起活動、スパイン活動を操作・記録し、これとマウスの記憶行動との因果関係を探る。本研究の遂行により、長く議論が続いていた皮質内における記憶の固定化機序の一端が明らかにできると期待される。記憶の固定化に関連する皮質間の詳細な回路活動と細胞内機構を明らかにすることは、睡眠障害などによる認知機能低下の予防や回復につながると考えられる。
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