研究課題/領域番号 |
17K15569
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研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
向井 智美 愛知県がんセンター(研究所), 分子腫瘍学部, 研究員 (10706146)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 悪性中皮腫 / 共培養 |
研究実績の概要 |
悪性中皮腫は主に胸膜に発症する高悪性度の腫瘍であり、壁側・臓側胸膜表面にびまん性に広がる特徴がある。腫瘍が胸膜全体に進展するメカニズムを解明するため、不死化正常中皮細胞と、悪性中皮腫細胞の共培養を行った。 共培養の方法として、①悪性中皮腫細胞を単層培養し、その培養上清を正常中皮細胞に添加する方法、②ボイデンチャンバーを用いて、正常中皮細胞と悪性中皮腫細胞を非接着共培養する方法、③正常中皮細胞と悪性中皮腫細胞を混合培養する方法、④創傷治癒実験用のカルチャーインサートを用いて、それぞれのインサート内に正常中皮細胞、悪性中皮腫細胞を播種した後、インサートを取り外して培養する方法、を検討した。①の結果、正常中皮細胞の培養上清を正常中皮細胞に添加した場合と比較して、EMT関連因子であるSNILの発現が上昇した。②の方法でも同様の結果が得られ、悪性中皮腫細胞から放出される液性因子が、正常中皮細胞に何らかの影響を及ぼす可能性が示唆された。また、③④の方法を検討するにあたり、正常中皮細胞をGFPで蛍光ラベルした株(GFP-正常中皮細胞)と、悪性中皮腫細胞をmCherryで蛍光ラベルした株(mCherry-悪性中皮腫細胞)を樹立した。これらの細胞を用いて③を検討した結果、悪性中皮腫細胞とmCherry-悪性中皮腫細胞の混合培養と比較して、正常中皮細胞をmCherry-悪性中皮腫細胞の混合培養では、mCherry-悪性中皮腫細胞の細胞増殖能が亢進し、さらに形態的にも変化が見られた。また、④の結果、創傷治癒後のmCherry-悪性中皮腫細胞の運動がとどまらず、GFP-正常中皮細胞の内部にまで運動していく様子が観察された、正常中皮細胞との接触もしくは液性因子が悪性中皮腫細胞の増殖・運動能を上昇させる可能性が示唆された。 以上の結果より、それぞれの細胞が互いに協調して腫瘍進展を亢進することが推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画では、今年度は様々な共培養系を検討することを予定していた。予定していた培養方法に加え、新たな培養法も検討することが出来た。さらに、これらの共培養系において、正常中皮細胞と悪性中皮腫細胞が互いに協調しあいながら悪性形質を獲得する可能性が示唆された。当初の計画では、悪性中皮腫細胞が正常中皮細胞に与える影響に着目する予定であったが、今年度得られた結果より、正常中皮細胞が悪性中皮腫細胞に与える影響についても着目する必要があることがわかった。そのため、計画以上の検討が必要となっているが、おおむね予測どおりの結果が得られ、順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の結果をふまえ、平成30年度は正常中皮細胞と悪性中皮腫細胞の共培養によっておこる変化について、その分子機構の解析を中心に研究を進める予定である。特に非接着共培養によって、悪性中皮腫細胞から分泌される因子によって、正常中皮細胞の性質が変化することが明らかとなったため、その原因因子の探索を行う。また、接着混合培養によって、正常中皮細胞が悪性中皮腫細胞の増殖に関して影響を与えることが示唆されたが、接着が必須か否かの検討は行っていない。よって、非接着共培養でも同様の結果が得られるかを検討した後、原因因子の探索を行う。原因因子が同定されたのち、それらの阻害剤等によって腫瘍進展が抑制されるか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は悪性中皮腫細胞が正常中皮腫細胞の性質を変化させることを予測していたが、今年度の実験結果より、次年度は、悪性中皮腫から正常中皮細胞への影響とともに、正常中皮細胞から悪性中皮腫細胞への影響についても検討する必要がでてきた。原因物質の探索には様々な材料や、場合によっては受託解析等が必要となるため、そちらの費用確保のため、わずかに次年度に繰り越した。
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