悪性中皮腫は中皮細胞から発がんし、主に胸膜に発症する高悪性度の腫瘍である。壁側・臓側胸膜表面にびまん性に広がる特徴が、手術を困難にさせる。興味深いことに、近年卵巣癌においては、正常中皮細胞の存在が卵巣癌の進展を促進させることが報告され始めている。悪性中皮腫は中皮細胞に取り囲まれた環境で進展するため、悪性中皮腫細胞と正常中皮細胞との関連について検討することとした。 解析を進めるにあたり、前年度より悪性中皮腫細胞と正常中皮細胞との共培養法について、様々な検討を行っていた。今年度はその結果を踏まえ、悪性中皮腫細胞と正常中皮腫細胞の混合培養法を採用したが、更に解析の質を向上させるため、リアルタイム観察を試みた。正常中皮細胞と、mCherryで蛍光ラベルした悪性中皮腫細胞株(mCherry-悪性中皮腫細胞)を10:1の割合で混合し、生細胞の増殖の様子をリアルタイムで観察できる顕微鏡を用いてそれぞれの細胞増殖をモニタリングした。悪性中皮腫細胞とmCherry-悪性中皮腫細胞を10:1で混合培養した場合と比較して、正常中皮細胞との混合によってmCherry-悪性中皮腫細胞の増殖が顕著に促進することを定量的に示すことができた。さらに、悪性中皮腫細胞と、GFPで蛍光ラベルした正常中皮細胞株(GFP-正常中皮細胞)を10:1の割合で混合し、細胞増殖をモニタリングした。正常中皮細胞とGFP-正常中皮細胞を10:1で混合培養した場合と比較して、悪性中皮腫細胞との混合培養によって、GFP-正常中皮細胞の増殖が抑制された。これは、腫瘍細胞が優位になると、正常細胞が排除される可能性を示唆している。 以上の結果より、発がん初期段階では正常中皮細胞が悪性中皮腫細胞の増殖促進に寄与するが、腫瘍細胞が優位になると、正常細胞が排除されて腫瘍細胞に置き換わることが推測される。
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