研究課題/領域番号 |
17K15571
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大屋 愛実 名古屋大学, 医学系研究科, 研究員 (90777997)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | メラノコルチン / 肥満 / 加齢 / 視床下部背内側部 |
研究実績の概要 |
加齢性肥満の発症機構の解明は高齢化の進む現代において重要な課題である。研究代表者らは、9週齢のyoungラットと6ヶ月齢のagedラットにおいて、褐色脂肪組織(BAT)における熱産生を観察する生理実験を行った。その結果、youngラットに対してagedラットの方が皮膚冷却に対する熱産生の応答性が低いことを発見した。このことから、BATにおける熱産生を制御する神経回路が加齢によって変容している可能性が示唆された。 これまでの研究代表者らの先行研究から、BAT熱産生の制御において視床下部背内側部が重要な役割を果たすことが分かっている。視床下部背内側部は4型メラノコルチン受容体(MC4R)を発現する。また、摂食・代謝調節の中枢神経システムにおいてはメラノコルチン系が重要な役割を担っており、特にMC4Rの異常は肥満につながる。 研究代表者は加齢性肥満の発症に対するMC4Rの関与の可能性を検証するため、youngラットとagedラットに対し、視床下部背内側部にMC4Rのアゴニストを微量注入し、視床下部背内側部が制御するBAT代謝熱産生に及ぼす影響を調べた。その結果、youngラットに対してagedラットの方がアゴニスト注入によるBATの熱産生反応が減弱していた。 研究代表者らが独自に作製した抗MC4R特異的抗体を用いて免疫組織染色を行うと、MC4Rが視床下部背内側部の神経細胞の特定の細胞内構造に強く局在することを見出した。さらに、MC4R陽性の細胞内構造がyoungラットと比較してagedラットでは変容していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、摂食・代謝調節において重要な役割を担う4型メラノコルチン受容体(MC4R)の感受性に対して、高脂肪食摂取や加齢など、肥満につながる環境要因が及ぼす影響を生理学・組織学・遺伝学的手法によって明らかにすることを目的としている。 研究代表者らは平成29年度に、9週齢のyoungラットと6ヶ月齢のagedラットにおいて、褐色脂肪組織(BAT)における熱産生を観察するin vivo生理実験を行った。その結果、BATにおける熱産生を制御する視床下部背内側部において、youngラットと比較してagedラットの方がメラノコルチンへの感受性が弱まることを発見した。 平成30年度はこの結果をもとに、視床下部背内側部におけるMC4Rの発現が加齢によってどのように変容するかを解析した。これまで、MC4Rに対する特異的抗体が存在しなかったため、その蛋白質の細胞内局在は知られていなかったが、研究代表者の所属する研究室では免疫組織染色に使用できる抗MC4R抗体の作製に世界に先駆けて成功し、この抗体を用いて、脳組織の免疫組織染色を行うと、MC4Rが視床下部室傍核および視床下部背内側部の神経細胞の特定の細胞内構造に強く局在することを見出した。この抗体を用いてyoungラットおよびagedラットから摘出した脳で免疫組織染色を行ったところ、視床下部背内側部においてMC4R陽性の細胞内構造がyoungラットと比較してagedラットでは変容していた(MC4R陰性の細胞内構造は変容しない)。 研究代表者は平成30年度に妊娠・出産を経験したため、産休・育休中はデータを取得することができず、復職後も育児のため研究時間の短縮が必要となったため、当初の予定よりも進捗が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者が行ったこれまでの実験結果から、加齢によって視床下部背内側部の神経細胞の特定の細胞内構造が加齢によって変容し、そこに発現するMC4Rが減少するためにメラノコルチンへの感度が低下し、肥満が発症するという仮説を立てた。今後はこの仮説の検証を通じて、視床下部神経細胞におけるMC4R陽性細胞内構造の加齢性変容による肥満発症機構の解明を目指す。具体的には、アデノ随伴ウイルスを用いて、延髄縫線核に投射する視床下部背内側部のニューロン特異的にこの細胞内構造の形成遺伝子をノックダウンしてMC4R陽性細胞内構造を変容させる。そして、このラットにおけるMC4R陽性細胞内構造、摂食量、代謝量、体脂肪率および体重への影響を観察する。さらに、このラットに対して皮膚冷却あるいはMC4Rのアゴニストの投与を行い、in vivo生理実験によってBAT代謝熱産生への影響を観察する。 また、加齢による細胞内構造の変容現象をより詳細に解析するため、3週齢から18ヶ月齢前後までの多様な加齢段階のラットの視床下部を含む脳組織において免疫組織染色を行い、細胞内構造の変化を観察する。細胞内構造の変容に影響を与える他の因子として、高脂肪摂取や運動が考えられる。そこで、飼育するラットに3週齢から18ヶ月齢まで継続的な高脂肪食の投与、あるいは回転輪の付いた自発運動ケージでの飼育を行い、MC4R陽性細胞内構造の加齢性変容への影響を調べる。 作製した老齢、高脂肪食投与ラットにおいて、MC4R陽性細胞内構造の変容が確認されたら、それらのサンプルを用いて細胞内構造の変容を制御する因子の特定を試みる。具体的には、それぞれのサンプルの視床下部室傍核および背内側部からRNAを抽出し、cDNAライブラリを作製する。そして次世代シーケンシングにより網羅的な遺伝子解析を行い、細胞内構造の変容に関与すると考えられる遺伝子を特定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度の予定では、独自に作製した4型メラノコルチン受容体(MC4R)に対する抗体を用いて、ラット脳内におけるMC4Rの加齢による局在変化を組織学的に詳細に解析し、ウイルスによってその局在を操作した際の摂食・代謝に及ぼす影響を明らかにする予定であった。しかし、細胞内局在変化の解析に予想以上に時間を要したため、未使用額が生じた。 次年度は、これまでに行った実験で得られた知見をもとに、MC4Rの細胞内局在に対する加齢の影響を組織学的・遺伝学的手法を用いて解明する。そして、その実験から得られた新たな知見を学会で発表するため、未使用額は旅費へ振り替える。また、残額は、現在進行中の実験に必要なウイルスベクター作製、 遺伝子解析、実験動物飼育に要する消耗品の購入等に使用する。
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