現代社会において、加齢性肥満発症機構の解明は喫緊の課題である。研究代表者は、9週齢のラットと6ヶ月齢のラットにおいてin vivo生理実験を行ったところ、加齢に伴い皮膚冷却に対するBAT熱産生が減弱することがわかった。また、BAT熱産生の制御において重要な役割を果たす視床下部背内側部は4型メラノコルチン受容体(MC4R)を発現しており、加齢性肥満の発症に対するMC4Rの関与の可能性を検証したところ、メラノコルチンへの感受性が加齢と共に弱まることを明らかにした。このことから、BATにおける熱産生を制御する神経回路が加齢によって変容している可能性が示唆された。 次に、研究代表者らが独自に作製した抗MC4R特異的抗体を用いて免疫組織染色を行うと、MC4Rが視床下部背内側部の神経細胞の特定の細胞内構造に強く局在することを見出した。さらに、MC4R陽性の細胞内構造が加齢と共に変容していた。 MC4R遺伝子プロモーター下でCreを発現する遺伝子改変動物を用いて、視床下部背内側部のMC4R発現神経細胞選択的に、MC4Rが局在する細胞内構造を減少させたところ、コントロール群と比較して代謝量が減少していた。また、体重と体脂肪率は増加し、肥満傾向となることがわかった。MC4Rは視床下部背内側部だけでなく、視床下部室傍核にも発現することがわかっており、室傍核のMC4Rは主に摂食を制御する。視床下部室傍核および背内側部の両方においてMC4R発現神経細胞選択的に特定の細胞内構造を減少させたところ、視床下部背内側部だけで減少させた時と比較して摂食量が増加し、さらに体重と体脂肪率が増加することが分かった。 今後はMC4R陽性細胞内構造の加齢による変容を人為的に抑制した個体を作製して、摂食量や代謝量に及ぼす影響を明らかにし、加齢性肥満発症の脳内機構の解明を目指す。
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