研究課題/領域番号 |
17K15574
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
池上 啓介 近畿大学, 医学部, 助教 (10709330)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 松果体 / 概日時計 / 視交叉上核 / メラトニン / 光位相反応 |
研究実績の概要 |
哺乳類は、網膜で受容する光刺激が概日リズムの中枢である脳の視交叉上核(SCN)に伝えられて概日リズムの位相を変化させることで環境の明暗周期に同調している。最近、申請者らは、網膜において光応答リズムで観られるゲート機構が存在することを発見した。本研究では哺乳類の網膜におけるゲート機構の分子機構および活動リズムの同調機構に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。 網膜の概日時計は環境光とSCNからの概日リズム刺激の両者で制御されている可能性があり、その二つの因子を分離して検討する必要がある。我々は、B6マウスを用い、時差ボケ実験を行ってこの二つの因子を分離した。明暗周期の急速なシフト後、SCN背側部の概日リズムはゆっくりとしたシフトを示すため時差ボケが生じる。この際、環境光刺激とSCNからの同調刺激が脱同期するため、分離が可能となる。結果、網膜におけるcFosの発現誘導リズムの再同調の速度はSCNのリズムを反映する活動リズムの再同調スピードと一致した。これは網膜概日リズムのシフトでは環境光よりもSCNによる同調機構が優位であることを示す。さらに、SCNによる網膜の光感受性リズム形成の責任因子を探索するため、副腎除去(ADX)を行った。するとリズムが減衰した。さらに、コルチコステロン(CORT)投与によりその減衰が回復した。さらに網膜の時計遺伝子の発現リズムもADXにより減衰しCORT投与で回復した。これらから網膜概日時計は副腎CORTを介してSCNに制御されていることが推測された。次にCORTが制御する網膜概日時計の局在を免疫染色により検討したところ、RGCにおけるCORT受容体GRとPer1の共発現が判明した。これは網膜cFos発現に見られる光応答リズムがRGCの概日時計により形成されることを示唆する。これらの結果を学会や研究会で発表した。現在論文投稿準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の計画では「光による網膜概日時計の制御における光受容器を明らかにする」ため、光受容器(Opn4とOpn5)をノックアウトしたマウスを作成し、光応答リズムへの寄与を明らかにすることを目的としたが、現在CRISPR/Cas9システムを用いたノックアウトマウスの作製が未だ途中で思った通り進んでいない。 しかし、2つ目の計画「光刺激以外による網膜概日時計の制御機構を明らかにする」段階はSCNが副腎のコルチコステロンを介して網膜の時計遺伝子の発現を制御していることが分かり順調に進んでいる。さらに、3つの計画である「光感受性リズムが網膜概日時計による直接的制御かSCNによる間接的制御かを解明する」ためにはその二つの因子を分離して検討する必要があったが、我々は時差ボケ実験を行ってこの二つの因子を分離し、SCNによって網膜概日時計が制御され、その概日時計が網膜における光応答性リズムを生みだすというメカニズムを明らかにできた。また、平成30年度の網膜特異的Bmal1ノックアウトマウスの作製も順調で平成30年度に解析できる見通しである。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの計画通り、網膜の神経伝達物質関連因子で昼夜で変動する因子を網羅的に探索し同定する。特に主観的昼に発現が高まる抑制性因子などに着目する。平成29年度の研究でコルチコステロンが網膜の時計遺伝子を制御することは判明したが、その概日時計がどのようにして同定した神経伝達物質関連因子の日内変動を制御しているかを今後検討する。Per1遺伝子のpromoterにはグルココルチコイド受容体制御配列が存在するが、同定因子をコードする遺伝子のpromoterへのE-boxなどの直接的な時計タンパク質の制御も含めて一連の制御機構の機序を明らかにする。 また、網膜特異的Bmal1ノックアウトマウスを用いて網膜におけるc-Fos 発現誘導や行動リズムにおける光位相反応やを解析することで、光位相反応における網膜の概日時計の重要性を検証する。さらに、そのマウスは網膜の光感受性リズムがなくなると考えられるが、Opn4Opn5ノックアウトマウスでの光応答反応や、光照射による行動リズムの位相変化への影響やその時のSCNの反応なども検証することで、網膜の光感受性のリズム(ゲート機構)が行動リズムの光位相反応および光不応期(Dadzone)に及ぼす影響を明らかにする。またこれらのマウスにおける視覚行動実験を実施し、見え方への影響も検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
網羅的な遺伝子発現解析において運よくトライアル試薬や既存の試薬等を用いて実施できたため試薬費用が削減できた。また購入予定であったクロマトグラフィーは平成29年度直接経費の当初の申請額より低かったために購入を断念し、サーマルサイクラーは民間企業からの助成金によりオークションで購入したため機器費用として使用しなかった。また、平成29年度の年度後半では所属変更のための引継ぎおよび準備で試薬動物等を購入することができなかったため当初の使用予定額よりも低くなった。しかし、周りのサポートもありおおむね順調に計画は進んでおり、次年度使用額は、当初の平成30年度の研究計画に加えて、同定因子のノックアウトマウス(コンディショナル)の作製のために充てる予定で、そのマウスにおける光応答性、行動リズムの光位相反応、視覚機能への影響を追加で検討する。また、新しい研究室における解析設備の立ち上げのため、行動解析ソフトを消耗品として購入する予定である。
|