敗血症は種々の抗菌薬治療が確立した現在においても未だに ICU で 25% もの高い死亡率を有しており、特に敗血症性ショックを伴うものは予後が悪く、院内死亡率は 30-50% と非常に高くなる。 2016年には敗血症ガイドラインが見直され、より重症な集団に絞ったものとなった。このように敗血症は未だに決定的治療法が模索されており、敗血症病態を惹起するメカニズムの解明は世界的に喫緊の課題となっている。敗血症治療では、臓器障害や全身性の炎症反応が亢進することにより臓器不全やショックを呈して予後不良に至らせないことが重要となる。近年では集中治療室における敗血症患者の予後について、男性に比べて女性の方が良好であることが報告されている。炎症疾患における性差も報告されており、エストロゲンによる炎症性サイトカインの産生抑制が報告されている。エストロゲンによる抗炎症作用が敗血症の有効な治療につながる可能性も期待されている。本研究はsham手術群、卵巣摘出術群、及びエストロゲン補充群に分けたマウスに盲腸結紮穿孔を施すことによって敗血症マウスを作成する。盲腸結紮穿孔後見られる血圧や血液生化学検査値の変化を検討し、各臓器(肺、肝臓、腎臓)の臓器障害の指標となる炎症メディエータや炎症関連タンパク質の変動、組織学的検討及びアポトーシスの進行、以上の変化に対して卵巣摘出による卵巣由来のエストロゲンを抑制した群とエストロゲン補充群においたどのような所見が変化するかどうかを解明する。この実験によりエストロゲンの作用が敗血症モデルマウスの予後に変化を及ぼすか否かを明らかとする。本研究は、ICUの現場におけるに女性患者の炎症に対する抵抗力の高さがエストロゲンの作用によるものだとする仮定を検証し、その結果が未だに根本的な治療法の確立していない敗血症の新規治療法の開発の一助になることを目的としている。
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