Differentiation Inducing Factor-1(DIF-1)は細胞性粘菌が分泌する天然物質で、様々ながん細胞株において、抗腫瘍効果を発揮することを我々は見出した。その機序は、DIF-1がGSK-3の活性化を通じてcyclin D1およびc-Mycのタンパク質分解を誘導することとWnt/β-cateninシグナル伝達経路を抑制することで、細胞増殖を抑制することだ。DIF-1の生体内での作用について、がんモデルマウスを用いて検討を行い、抗腫瘍効果を持つことも報告した。 乳がんの5年生存率は、ステージⅠおよびⅡで90%以上であるのに対して、ステージⅣでは22%とがん遠隔転移が著しく生命予後を悪化させることが知られている。そこで、本研究はDIF-1の抗腫瘍薬としての創薬を目指し、乳がん細胞を用いて細胞増殖・細胞遊走・癌転移に対するDIF-1の効果を検討した。 DIF-1の経口投与はMCF-7細胞および4T1細胞の注入による腫瘍形成モデルおよび腫瘍転移モデルにおいて、体重減少や骨髄抑制のような代表的な副作用なしに、腫瘍増大を減弱さらに肺への転移を抑制した。DIF-1はMCF-7細胞および4T1細胞の細胞周期はG0/G1期で拘束していた。DIF-1はcycllinD1のタンパク質分解を誘導しているだけでなく転写も抑制していた。その機序においては、これまで報告してきたGSK-3を介したものと違い、STAT3のリン酸化およびトータルのタンパク質レベルいずれも減少させることでcyclinD1発現を阻害し、細胞増殖を抑制するものであった。さらにDIF-1はsnailの発現を減少させ、遊走に関わるMMP-2およびvimentinの発現を減少させた細胞遊走および浸潤を抑制することが明らかとなった。 DIF-1は乳がんへの有効な抗腫瘍薬になりうることがわかった。
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