研究課題/領域番号 |
17K15583
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
横江 俊一 大阪医科大学, 医学部, 助教 (40454756)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ユビキチンリガーゼ / 心不全 |
研究実績の概要 |
ヒト不全心筋では、ユビキチン化タンパク質の過剰な蓄積が認められることから、心不全増悪時に高発現もしくは活性化されるユビキチン転移酵素(ユビキチンリガーゼ)が存在するという仮定のもと、ユビキチンリガーゼの探索ならびに心機能に及ぼす影響を調べた。まず、心不全増悪時にユビキチン化が増加しているタンパク質の一つとして心筋小胞体カルシウムポンプ(SERCA2a)の制御因子であるホスホランバン(PLN)に着目し、PLN のユビキチン化を促進しているユビキチンリガーゼの同定を試みた。その結果、低酸素状態で誘導されてくる低酸素誘導因子(HIF-1α)を負に制御しているユビキチンリガーゼであるvon Hippel-Lindau(VHL)が、PLNのユビキチン化に寄与していることを明らかにした。実際に、二種類の遺伝学的背景の異なる心不全モデルマウス(tgPLNR9C, tgNHE1)の心臓では、両モデルマウスともにVHLの発現量が野生型マウスと比較して増加しており、さらに、VHLとPLNの結合も顕著に増加していることが観察された。 以上の結果より、心収縮能調節因子であるPLNをユビキチン化しているユビキチンリガーゼの一つとして、新たにVHLの寄与を示すことができ、PLN分解系の一端を担っていることが明らかになった。将来的にVHLを標的とした治療戦略を立てることを目標としており、心不全症状の改善や治療法の向上を目指す上でとても意義があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
心不全症状の重篤度によって、ユビキチンリガーゼであるVHLと心収縮能調節因子であるPLNの結合、およびPLNのユビキチン化がどの程度変動するのかを明らかにする為に、ミトコンドリア膜電位を低下させる脱共役剤(CCCP*)を作用させたPLN強発現HEK293細胞、ならびに遺伝学的背景の異なる二種類の心不全モデルマウス(PLNR9C変異発現マウス(tgPLNR9C)、 Na+/H+交換輸送体発現マウス(tgNHE1))の心臓を用いて研究を進めた。*心不全増悪時には、障害を受けたミトコンドリアからの活性酸素種(ROS)の産生亢進が起こるため、CCCP処理によりミトコンドリアに障害を与え、このような活性酸素種がPLNの分解系に影響しているかどうか検討する目的で行った。 CCCP処理したPLN強発現HEK293細胞では、VHLとPLNの抗体を用いた免疫沈降実験により両者の強い結合が観察され、その結合は、ROSスカベンジャーとして用いたN-アセチルシステイン(NAC)により減弱した。一方、二種類の心不全モデルマウスの心臓では、ともにVHLの発現量が野生型マウスと比較して増加しており、さらに、VHLとPLNの結合も顕著に増加していることが観察された。重篤な心不全ではPLNの発現量が減少することが知られているが、その一因として、心不全で発現の増加してくるVHLがPLNを標的としてユビキチン化の亢進、ならびに分解促進の一端を担っていることが示唆された。 以上の結果より、心収縮能調節因子であるPLNをユビキチン化しているユビキチンリガーゼの一つとして、新たにVHLの寄与を示すことができ、心不全症状を呈する場合には、PLN分解系の亢進にも寄与していることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降に、実際にVHLがPLNを介して心機能へ及ぼす影響を明らかにする為に、VHL遺伝子をノックアウト(KO)したiPS細胞から分化誘導させた心筋細胞を用いて、ユビキチン化PLNレベルの変動、ならびに心筋細胞収縮能を測定する。また、心不全の種類や重症度によってVHLがどの程度PLNのユビキチン化および分解に関与し、心機能を制御しているかを明らかにしていくことが出来れば、既存の改善策や治療薬で効果が見られない際に、VHLを標的とした治療戦略を立てることが期待でき、心不全根治を目指す新しい原因療法の一つとして有望であると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、心不全モデルマウスを用いた実験計画が当初予定していたよりもスムーズに進行し、十分な実験結果が得られたため、マウス飼育費を抑えることが可能となった。次年度は、引き続きマウス飼育費、培養細胞関連試薬(培地、血清、添加物等)、研究成果発表のための学会参加費、論文校正費・投稿料などに使用させていただく予定である。
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