研究実績の概要 |
ヒト不全心筋では、ユビキチン化タンパク質の過剰な蓄積が認められることから、心不全増悪時に高発現もしくは活性化されるユビキチン転移酵素(ユビキチンリガーゼ)が存在すると考え、ユビキチンリガーゼの探索ならびに心機能に及ぼす影響を調べた。まず、心不全増悪時にユビキチン化が増加しているタンパク質の一つとして心収縮能調節因子であるホスホランバン(PLN)に着目し、そのユビキチン化を促進しているユビキチンリガーゼの同定を試みた。その結果、低酸素誘導因子(HIF-1α)を負に制御しているユビキチンリガーゼであるvon Hippel-Lindau(VHL)が、PLNのユビキチン化に寄与していることを見出した。実際に、心不全モデルマウス(TgPLNR9C, NHE1-Tg)の心臓では、VHLの発現量が野生型マウスと比較して増加しており、また、VHLとPLNの結合も顕著に増加していることが観察された。さらに、心不全病態ではダメージを受けたミトコンドリアの蓄積が多く観察されることから、ミトコンドリア脱共役剤(cccp)を作用させたPLN発現HEK293細胞でVHLとPLNの結合を観察したところ、両者の結合が顕著に増加している一方で、PLNの総発現量は減少していた。これらの現象は、活性酸素種(ROS)スカベンジャー(NAC)を前処理することにより抑制された。VHLによるPLN分解系への影響をさらに調べるために、PLN発現HEK293細胞のVHL遺伝子をノックダウンしたところ、正常および酸化ストレス環境下において、PLNの発現は増加した。 以上より、PLNをユビキチン化しているユビキチンリガーゼの一つとして、新たにVHLの寄与を示すことができ、PLN分解系の一端を担っていることが明らかになった。心不全病態の改善や治療法の向上を目指す上で、VHLを標的とした新たな治療戦略を構築できる可能性を示した。
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