研究課題/領域番号 |
17K15584
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
山地 賢三郎 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 主任研究員 (40508628)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | NASH / 肝線維化 / 脱線維化作用 / PRI-724 |
研究実績の概要 |
最近、Wnt/β-カテニンシグナルが組織の線維化に関与することが報告され、肝線維化に対する新たな標的と考えられている。Wnt/β-カテニン/CBPシグナル阻害剤 PRI-724はC型肝硬変患者を対象とした医師主導型治験が実施されている薬剤である。 非アルコール性脂肪肝炎 (NASH) に起因する肝硬変は肝細胞がんのリスクファクターであり、その患者数は増加傾向にあるが、NASH肝硬変の治療を含めてNASHに対する薬物療法は存在しない。本研究では PRI-724がNASHに起因する肝線維を減弱させる機序を明らかにし、PRI-724のNASH肝線維化/肝硬変に対する治療薬としての可能性について検証する。 NASH誘発性肝線維化モデルマウスを用いてPRI-724の抗線維化作用を検討した結果、PRI-724投与群でコントロール群と比較し肝線維化像において著しい改善が認められた。そこで、コラーゲン線維産生と分解系に着目して解析を行ったところ、コラーゲン合成系の発現抑制に加え、コラーゲン分解酵素 (MMP-8, MMP-9) の発現亢進が認められた。フローサイトメトリーおよび免疫組織化学染色による解析から、発現が亢進したMMP-9はマクロファージや好中球で産生されていることが示された。一方で活性化肝星細胞マーカーであるsmooth muscle actin発現変化は認められず、肝星細胞活性の抑制を介さない脱線維化機構が存在することが示唆された。またNASH誘発肝線維化マウスへのPRI-724の投与によって、血管周囲の脂肪化や肝細胞索の異常構造等の組織所見も改善することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NASH誘発性肝線維化モデルマウスを用いてPRI-724 (20 mg/kg) の抗線維化作用を検討した結果、PRI-724投与群で肝線維化改善効果が認められたことから、コラーゲン線維産生および分解酵素に着目して解析を行った。その結果コラーゲン合成系の発現抑制に加え、コラーゲン分解酵素 (MMP-8, MMP-9) の発現亢進が明らかとなった。さらにフローサイトメトリーおよび免疫組織化学染色による解析から、発現が亢進したMMP-9はマクロファージや好中球で産生されていることが示された。 これらの結果は、HCV発現肝線維化マウスを用いた解析の結果とほぼ一致しており、PRI-724によるNASH誘発性肝線維の脱線維化は、HCV誘発性肝線維の脱線維化と同様の機序で起こっている可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
PRI-724の脱線維化作用の機序解析を平成30年度も引き続き行う。PRI-724の「Wnt/β-カテニン/CBPシグナルを介さない」肝線維化消失の機序の可能性について検証する。また、PRI-724 (20 mg/kg)の投与試験において、脱線維化作用が弱い個体が一部認められため、PRI-724の投与量及び投与間隔の最適化検討を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
NASHモデルマウス作製のための飼料代が少額で済んだため。またPCR関連の試薬、プライマーおよびFACS用の抗体は既存の試薬を使用することが可能であったため。 平成30年度は、NASHモデルマウス飼料代、1細胞遺伝子発現解析の試薬代などに使用する予定である。
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