研究実績の概要 |
肝硬変は肝炎ウイルス肝炎やアルコール性肝疾患などを原因とし、現在有効な治療薬は存在しない。近年、非アルコール性脂肪肝炎 (NASH) に起因する肝硬変患者数は増加傾向にあり、今後ますます増加すると考えられている。 Wnt/β-カテニン/CBPシグナル阻害剤 PRI-724は、B型およびC型肝炎に起因する肝硬変患者を対象とした新規肝硬変治療薬として開発が進んでいる。本研究課題では PRI-724がNASHに起因する肝線維を減弱させる機序を明らかにし、PRI-724のNASH肝線維化/肝硬変に対する治療薬としての可能性について検証した。 NASH誘発性肝線維化モデルマウスを用いてPRI-724の抗線維化作用を検討した結果、肝線維化の著しい改善が認められた。PRI-724の作用機序を明らかにするため、まず始めにコラーゲン線維の産生に対する影響を解析したところ、PRI-724投与群では、コラーゲン合成系 (Col1a1, Col3a1) およびDesminの遺伝子発現の低下、またI型およびIII型コラーゲンやαSMAタンパク質の発現抑制が認められた。続いてコラーゲン線維分解系に着目して解析したところ、線維分解系に関わる遺伝子 (Mmp8, Mmp9) の亢進の有意な亢進が認められた。さらに、フローサイトメトリーおよび免疫組織染色の結果から、MMP-9はマクロファージや好中球が産生することが明らかとなった。以上の結果から、PRI-724は肝星細胞でのコラーゲン合成抑制とマクロファージや好中球が産生されたコラーゲン線維分解酵素亢進の2つの作用機序を有する薬剤であることが示された。これらの結果は、HCV発現肝線維化マウスを用いた解析の結果とほぼ一致しており、PRI-724によるNASH誘発性肝線維の脱線維化は、HCV誘発性肝線維の脱線維化と同様の機序で起こっている可能性が示唆された。
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