骨髄は哺乳類の主要な造血の場として重要な役割を担う組織である。骨髄は骨の内腔に存在し、血球や血管、骨髄ストローマ細胞と呼ばれる間質細胞などから構成され、造血幹細胞の維持と血球産生を行う。骨髄の発生は胎生期に始まるが、詳細な機序は十分に明らかにされていない。そこで本研究では骨髄造血微小環境の構築に寄与する細胞群の同定と機能解析を目的とした。特に、近年成体骨髄での造血幹細胞支持機能が示された骨髄ストローマ細胞に着目し、その発生学的起源となる細胞の同定を目指した。 マウスを用いた解析から、骨髄腔の形成開始直前に胎仔軟骨膜に出現するRANKL陽性細胞が、破骨細胞の誘導を介して骨髄腔の形成に寄与することを見出した。また、上記RANKL陽性胎仔軟骨膜細胞が出生時までに骨芽細胞や骨髄ストローマ細胞を含む、骨と骨髄を構成する複数種類の細胞へ分化する、未分化な間葉系細胞であることを明らかにした。さらにRANKL陽性胎仔軟骨膜細胞の一細胞遺伝子発現解析を行ったところ、この細胞が出生後の骨や骨髄に存在する骨芽細胞や骨髄ストローマ細胞とは異なる遺伝子発現パターンを示す胎仔特有の細胞群であることがわかった。これらの結果から、「骨髄腔の形成促進」と「骨や骨髄の構成細胞に分化する」という二つの機能により骨髄造血が開始する新生仔期の造血微小環境の構築に重要な働きを示す新規細胞群として、胎仔軟骨膜に存在するRANKL陽性未分化間葉系細胞を同定することができた。本研究により骨髄造血開始期の骨髄微小環境が形成されるメカニズムの一端が明らかになったことは学術的に意義がある。また、本研究において胎仔の正常な骨髄発生に働く細胞群の同定と性状解析により得られた知見は、今後、がん治療の副作用などにより機能低下した骨髄を再構築するための治療法などの開発に向けた基盤となることが期待される。
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